©Iris Luz

 「今回のアルバムのイメージは、自分が見た夢が元になっている。地球の隣に2つの月が見えて、それが私とルイスみたいだなと思った。2人はそれぞれ引力を持つ月で、もし地球の両側に月があったら、互いが逆に引っ張り合って回らないでしょう? そんな感じを表現したかった。そういうふうに立ち往生して、動けないような感覚が私たちにもしばらくあったから」(アーシャ・ローレンツ:以下同)。

 多くの新進バンドが台頭したここ数年のUKシーンの流れにあって、ブラック・ミディらと並んでブリクストンの〈ウィンドミル〉から躍進したソーリー。コロナ禍の拡大と重なる不運なタイミングで世に出た初作『925』も高評価を得たが、それから2年半ぶりの新作『Anywhere But Here』は、社会の変化も反映しつつバンドの現在を表現する一枚となった。アーシャと幼馴染のルイス・オブライエンによって結成され、ドラマーのリンカーン・バレット、ベースなどを弾くキャンベル・バウムを加えた体制で前作を出した後、学生時代からの友人だったというエレクトロニクス奏者のマルコ・ピニが加入して5人組に。グロウズなるプロジェクトも推進する彼の表現は、制作プロセスの変化にも作用したようだ。

SORRY 『Anywhere But Here』 Domino/BEAT(2022)

 「前作よりライヴっぽい環境でレコーディングしたくて、あらかじめ曲の全体像をしっかり考えるようにした。『925』は曲がだいたい出来たらレコーディングして、プロダクションを後付けで加えていた。でも、そのやり方だと特定のサウンドが前に出過ぎたりして曲全体がまとまりなく聴こえることもあったから、今回はそれぞれがパートを書き上げてからマルコがエフェクトなどを加えていって、それをライヴで演奏してレコーディングしたの。曲の全体図を一度で取り込むようにして、オーヴァーダブもなるべく少なくした。収録曲にはすべて一貫した雰囲気というか、同じところから来ている感じを持たせたかった」。

 よりリリカルでソング・オリエンテッドな雰囲気も『Anywhere But Here』の特徴だろうか。資料にはカーリー・サイモンやニック・ドレイク、ランディ・ニューマンのような名前も挙がるが、アーシャの苦くて甘い声やルイスの素朴な歌い口は、90年代っぽいグルーミーな歪みを纏ったサウンドの質感にしっくり馴染む。その音像に貢献したのは、プロデュースに名を連ねたエイドリアン・アトリー(ポーティスヘッド)とエンジニアのアリ・チャントだ。

 「私たちはポーティスヘッドが大好きで、一緒に仕事できるプロデューサーの候補にエイドリアンが挙がっていたから連絡を取って、ブリストルのアリのスタジオでレコーディングした。彼らはバンドに相応しいギターやドラムの音を選んでくれた。今回は昔のようなサウンドに私たちのモダンなプロダクションを加えたかったから、それをうまく表現できる知識を持っている人たちと一緒に仕事をしたかった。エイドリアンとアリは曲に古い雰囲気を持たせ、かつ大きなスペースを持たせるのに長けていて、私たちが考えていなかったようなやり方でもっと大きなスケール感を出すのが上手かったし、私たちが求めている雰囲気やスペースを作り出すことができた」。

 その深い音風景と淡々とした歌唱表現のコントラストは、彼らを取り巻く深刻さの投影でもあるのかもしれない。不穏で窮屈な時代、物価の高騰によって変わりゆくロンドン、パーソナルな恋愛の破綻などなど、「何もかもが私という人間から遠く離れていく気がしていた」と語るアーシャにとって、冒頭で触れた夢の話は実に象徴的なものだったはずだ。

 「アルバムの曲はすべて、世界や周りの人たちのことがいまいち理解できない人の視線から歌われている。その人にはいろいろな出来事が起こるんだけど、起きた出来事を感情のない言い方でしか表現できない。そこに感情はあるはずなんだけれど、感情として表現できてないというか。見たままだけを表現していて、その向こう側へなかなか辿り着けない感じ――そういう孤立したスタンスから曲を書きたかった」。

 再生と死について歌った“Again”でこのポップで内省的な意欲作は幕を下ろす。なお、アルバム表題曲は「収録されていないけどアルバムを方向付けた曲で、今後リリースされる」とのことで、そちらも楽しみにしておきたい。

 


ソーリー
アーシャ・ローレンツ(ヴォーカル/ギター)、ルイス・オブライエン(ヴォーカル/ギター)、リンカーン・バレット(ドラムス)、キャンベル・バウム(ベース)、マルコ・ピニ(エレクトロニクス)から成るロンドン拠点のロック・バンド。幼馴染だったアーシャとルイスによってデュオとして結成され、その後バンドに発展。2017年にミックステープ『Home Demo/ns Vol I』を発表してドミノと契約する。2020年のファースト・アルバム『925』が高い評価を獲得。翌年のライヴ盤『A Night At The Windmill』を経て、セカンド・アルバム『Anywhere But Here』(Domino/BEAT)を10月7日にリリースする。