天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、この一週間に海外シーンで発表された楽曲のなかから必聴の5曲を紹介する連載〈Pop Style Now〉。今週は2人の選曲があまり被らず、5曲を選ぶのに難航しました」

田中亮太「僕としては〈今週の一曲〉は村上隆が制作したミュージック・ビデオがかなり話題になってるビリー・アイリッシュの“you should see me in a crown”だったのですが、去年の曲ですし、映像はApple Music限定なので選出を見送りました」

天野「〈アメリカ人って本当に村上隆が好きだよね~〉なんて思いながらMVを観たんですが、ポップかつグロい映像がビリーの歌とバッチリ合ってて、ぶっ飛ばされましたね。あと、僕はフルームのミックステープ『Hi This Is Flume』ばっかり聴いてました。SOPHIEやJPEGMAFIAも参加した超先鋭的な電子音楽絵巻って感じなのですが」

田中「聴いてみます! それでは今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

Jamila Woods “EARTHA”
Song Of The Week

天野「というわけで、ジャミーラ・ウッズの新曲“EARTHA”が〈SOTW〉。2月の“ZORA”に続いて2連続で〈SOTW〉に選出です」

田中「僕と天野くんの選曲がかろうじて重なったところがジャミーラの新曲だったという結果ではあるのですが(笑)。ともあれ、魅力的で力強い曲であることには違いありません」

天野「ですね。ジャミーラはチャンス・ザ・ラッパー周辺のシカゴ新世代を代表するR&Bシンガーという説明がわかりやすいでしょうか。“ZORA”のときにも説明したとおり、彼女が5月10日(金)にリリースする新作『LEGACY! LEGACY!』はアフリカ系やラテン系の偉人へのトリビュート・アルバムで、この“EARTHA”はアーサ・キットに捧げられた一曲です」

田中「この曲とアーサについては〈bmr〉の記事に詳しいですね。60年代のTVドラマ『バットマン』でキャットウーマン役を演じたことでも知られる女優/歌手のアーサ・キット。彼女はホワイトハウスの昼食会でベトナム戦争を批判するコメントをしたことで一時は芸能界から追放された――と」

天野「不勉強なことに、僕は彼女についてはまったく知らなかったのですが、クリスマス・ソング“Santa Baby”やシャンソン“C'est si bon”(共に53年)のヒットが有名なんですね。ジャミーラを通してブラック・カルチャーの歴史を学んでいるようで、すごく勉強になります」

田中「まさにそれがジャミーラのねらいなんでしょうね。ある意味、エデュケーショナルな音楽というか。肝心の“EARTHA”ですが、つんのめったようなビートとジャジーでネオ・ソウル風なエレクトリック・ピアノの響きが印象的な一曲です」

天野「優しく柔らかい歌声や切ないメロディーにも胸を打たれます。ちなみに、この曲のプロデュースはピーター・コットンテイル。同じシカゴで活動するチャンス・ザ・ラッパーの仲間たちで構成されたバンド、ソーシャル・エクスペリメントのメンバーです」

 

Tame Impala “Patience”

天野「2曲目はテーム・インパラが突如リリースした“Patience”。最近はセオフィラス・ロンドンZHUとの共演曲がありましたが、テーム・インパラとしては2015年の傑作アルバム『Currents』以来、ひさびさの新曲です」

田中「とはいえ、テーム・インパラことケヴィン・パーカーはビッグなアーティストから常に引っ張りだこなので、不在感はまったくなかったですよね。レディ・ガガの『Joanne』(2016年)やカリ・ウチスの『Isolation』(2018年)に参加してますし。直近では同郷、オーストラリアのパースのバンドであるポンドの新作『Tasmania』をプロデュースしてます」

天野「なかでも僕にとって印象的だったのが、トラヴィス・スコットのアルバム『ASTROWORLD』への参加ですね。“SKELETONS”という曲でファレルやウィークエンドと一緒に歌ってました。リアーナが『ANTI』(2016年)で彼の曲をカヴァーしたときも驚きましたが、テーム・インパラのサウンドや歌ってどうしてラッパーやR&Bシンガーから愛されてるんでしょうね?」

田中「さあ……。それはともかく、テーム・インパラの新曲“Patience”はいつになくダンサブルな曲で、ディスコ/ハウス的な趣きですよね。ジャケット写真にコンガが写ってますけど、コンガの音も軽快です」

天野「シンコペーションするピアノの透き通った音色なんか、笑っちゃうくらい80~90年代のハウスやポップスっぽいですよね。でも、フェイザーで音がぶわーんとうねるサイケデリックな音作りはいかにもテーム・インパラ。ケヴィンって、それまであまりカッコイイものではなかったフェイザーの音を復活させたミュージシャンだと僕は勝手に思ってます」

田中「そうなんですか? それにしても、『Currents』で極度に洗練されたサイケデリック・ロックに向かったテーム・インパラから、まさかこんなバレアリックな曲が届けられるとは思いもよりませんでした。新作が楽しみですね」

天野「今年は〈コーチェラ〉のヘッドライナーにも決まってますし、バンドとしての動きが活発になりそうですね。去年の〈サマーソニック〉に続いて、今年も日本でライヴしてほしい!」

 

Two Door Cinema Club “Talk”

天野「3曲目はトゥー・ドア・シネマ・クラブ(以下、TDCC)の“Talk”です。彼らは日本でも人気のダンス・ポップ・バンドですね」

田中「この曲は2016年のサード・アルバム『Gameshow』以来の新曲です。ニュー・エレクトロ全盛の時代にキツネから華々しく登場したTDCCも今年でデビュー10周年なんですね……」

天野「また遠い目をしてる……。2019年に戻ってきてください! で、この“Talk”は長年のコラボレーターであるジャックナイフ・リーがプロデュースしてます。しっかり踊れるファンキーなグルーヴと激キャッチーなメロディーという間違いない組み合わせの、TDCC印のポップ・ナンバーですね」

田中「彼らと同時期に登場したエレクトロ・ポップ系バンドのほとんどが消えてしまったことを思うと、TDCCの生き残り方はすごいと思います。“Talk”を聴いても、曲の良さを常にキープしつつ、サウンドをうまく更新させていることを実感しましたね」

天野「この曲、なんだか勢いがありますよね。前のめりなビートやゴージャスなプロダクションはクインシー・ジョーンズ期のマイケル・ジャクソンみたいで」

田中「コーラスの〈(Just do it) I want it all/Don't stop givin', I like the way you talk〉 というラインなんか、まさにそうですよね(笑)。ギター・バンドがディスコ/ブギーを解釈した楽曲はもう散々聴き飽きたと思ってたんですが、TDCCは“Talk”でその一歩先に進んだ気がします」

天野Spotifyの〈Teenage Two Door Soundtrack〉っていうプレイリストにホット・チップやラプチャー、レイト・オブ・ザ・ピア、レ・サヴィ・ファヴなんかが入ってて微笑ましいんですが、〈そこからここまで来たんだな~〉という感慨があります。今年はアルバムも作るんでしょうし、〈サマソニ〉出演も含めてこれからの活動が楽しみです」

 

Sorry “Jealous Guy”

田中「続いてソーリーの“Jealous Guy”。彼らは、シェイムゴート・ガールに続くUKインディーのビッグ・シングと噂されている、北ロンドン発の4人組です」

天野「へー」

田中「インディーだけでなくジャズやラップ・シーンもホットな南ロンドンではなく北というのがちょっとユニークな点で。でも、南の連中からも熱い支持を受けていて、〈i-D〉に掲載されたシェイムのインタヴューではチャーリー・スティーンが〈ソーリーを観るためならロンドンのどこにだって行くよ!〉と語っていました」

天野「ふーん。そういえば、リトル・シムズも北ロンドン出身ですよ」

田中「そうなんですか。……っていうか、ずいぶんつれないですね」

天野「僕は正直、この曲のどこがいいのかわかんなくて……。どこか新しいところがあります?」

田中「そうですねー。彼らは、2017年にドミノと契約して以降、精力的にシングルをリリースしているんですけど、不機嫌さの漂うグランジ―なギター・サウンドと、トリップ・ホップ的な仄暗さと浮遊感を融合している点に自分はフレッシュさを感じていますね。エラスティカ×ポーティスヘッドというか。この“Jealous Guy”でも、ブギーっぽいロックを基調としつつ、ドラムの鳴りやさりげなく配された電子音がおもしろい」

天野〈Pitchfork〉が2018年の楽曲“Twinkle”を取り上げたレヴューを読むと、ガービッジが引き合いに出されてましたが」

田中「そうそう。実際、ポップ・ポテンシャルも高そうに思います。フロントウーマンのアーシャ・ローレンスはウルフ・アリスのエリー・ロウゼルに比肩するアイコンになっていくのかも」

天野「ソーリーがめちゃくちゃ売れたら、亮太さんにビールをおごりますね。と、かなり冷めてますが、ジョン・レノンの“Jealous Guy”(71年)を批評したような歌詞はなかなかおもしろいと思いましたよ」

田中「ですよね! 〈私は嫉妬深い/あなたの瞳が他の誰かに向けられるのは我慢ならない〉というリリックは、昨今のフェミニズムの潮流をふまえていますし、ジョンの曲が内包していた男性上位的なニュアンスを反転させているようにも思います。ソーリーはそろそろフル・アルバムをリリースするのでは……という気がしているので、〈PSN〉としても注目しておきましょう!」

天野「はーい」

 

Logic “Confessions Of A Dangerous Mind

天野「今週最後の一曲は、現在のコンシャス・ラップを代表するロジックの“Confessions Of A Dangerous Mind”です。相変わらずカッコイイ!」

田中「そうですね。と言いつつ、僕はそこまでピンときてないんですが……(笑)。先週の〈PSN〉でご紹介したIDKにディスられていたロジックは、アメリカのメリーランド州出身のラッパーです。別名〈ヤング・シナトラ〉。同名ミックステープ・シリーズも出してます」

天野「先週も言いましたが、彼は黒人の父親と白人の母親の間に生まれたという複雑なアイデンティティーを持ってるんです。その出自からくる苦悩をたびたびラップしてますね。ロジックといえばアレッシア・カーラ、カリードと共演したヒット・ソング“1-800-273-8255“(2017年)で、曲名は自殺防止対策ホットラインの電話番号なんですが、自殺願望のある若者に優しく救いの手を差し伸べる感動的な一曲です。ただ、以前ご紹介したJ・コールのようにアメリカでの評価の高さと比較して、なかなか日本では知名度が低くて……」

田中「天野くんが頑張って布教してください(笑)。今回発表された新曲はこれからリリースされる6作目のアルバムのタイトル・トラックのようですね。ロジックは今年、“Keanu Reeves”という新曲も発表してますが、それもアルバムに入る予定だとか」

天野「そうです。曲名はジョージ・クルーニーの監督デビュー映画『コンフェッション』(2002年)の原題からの引用ですね。休みなくラップを続ける、言葉が詰め込まれたライミングからはロジックのラップ・スキルの高さが感じられます」

田中「プロダクションの面で言うと、この曲のトラックはロジックの右腕的なシックス(6ix)が制作してます。スムースでジャジー、90年代風でノスタルジックな趣です」

天野「リリックはSNSでの評価や自己イメージとの葛藤といった感じで、〈あいつらはいつも俺を他人と比べたがる〉〈ソーシャル・メディアなんてくそくらえ〉といったラインにもそれは表れてますね。〈幸福を探し求めることは、ただhits(ドラッグ/ヒット曲)を探し求めることに帰結する/結果として、それは抑うつと戦うこと/名声は苦痛を軽減しないってわかったよ〉と、なかなかに告白的な内容です」

田中「なるほど……。そういった苦しみを吐き出しているからこそ、ビデオでロジックは血まみれになってるわけですね」

天野「そのようですね。というわけで、今週の5曲をお送りしてまいりましたが、冒頭で述べたように2人の選曲があまり被らなかったので、特別に今週は〈田中と天野の5曲〉もご紹介したいと思います」

田中の今週の5曲
1. Billie Eilish “you should see me in a crown”
2. Lizzo feat. Misst Elliott “Tempo”
3. nothing,nowhere “call back”
4. Jamila Woods “EARTHA”
5. Nafets “Glorious”
この〈PSN〉でもさんざん伝えてきていますが、2019年はビリー・アイリッシュの年になるんでしょうね。今週金曜日にリリースされるアルバムが楽しみすぎて吐きそうです。リゾとミッシーの組み合わせは歓喜。ナッシング・ノーホエアはエモ・ラップの注目株で、この“call back”を聴けば、声の凄まじさはわかってもらえるのでは。ネイフェッツはLAの新進ラッパー/プロデューサー。途中からサンバ・ハウスっぽくなるビートが斬新でした。

天野の今週の5曲
1. Weyes Blood “Movies”
2. Jamila Woods “EARTHA”
3. Tory Lanez “Freaky”
4. Logic “Confessions Of A Dagerous Mind”
5. Flume feat. SOPHIE & Kučka “Voices”
まずはワイズ・ブラッドの新曲“Movies”。圧倒的にパワフルで感服です。ポスト・クラシカル的なストリングスもすごい。トーリー・レインズの“Freaky”は、この一週間のラップ・ソングだったらこれかロジックの新曲かという注目の一曲。フルームの“Voices”はサプライズ・リリースされた素晴らしいミックステープ『Hi This Is Flume』から。超レフトフィールドなエレトロニック・ポップです。インディー・ロックではナインス・ウェイヴの“Used To Be Yours”やドイツのガール(Gurr)による“Fake News”にも心を打たれました。