Photo:Erika Kapin

2人の奇跡的な瞬間を捉えた、ヴィレッジ・ヴァンガードの週末

 フレッド・ハーシュ(ピアノ)と、エスペランサ・スポルディング(ヴォーカル)。現代ジャズを代表する2つの才能の出逢いは2012年頃のヴィレッジ・ヴァンガードだったという。

 「私のトリオの演奏が終了した後、エスペランサが近づいてきて、おずおずと自己紹介してくれた。もちろん彼女のことは知っていたから、いつか一緒にプレイしようと誘った」と、ハーシュは振り返る。初共演は、2013年のジャズ・クラブ〈ジャズ・スタンダード〉で、ハーシュがさまざまなアーティストとデュオを聴かせるシリーズに、エスペランサを招いた。そして2018年の5月にジャズ・スタンダードで再演し、10月のヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ・レコーディングへと至った。

FRED HERSCH, ESPERANZA SPALDING 『Alive At The Village Vanguard』 Palmetto/Free Flying(2023)

 「ヴァンガードに出演した週の前半にリハをしたとき、エスペランサが、今回はウッド・ベースを持って来られないので、ヴォーカルに専念したいと言ったが、それも面白いと思った。金曜日の夜から日曜日までの3日間のギグの間、私たちは酷い状況にいた。私は月曜日に外科手術を控え、常に痛みと闘っていた。エスペランサは、家族のトラブルと、ウェイン・ショーター(テナー・サックス/ソプラノ・サックス)とのプロジェクトのプレッシャーで押し潰されそうになっていた。しかし、ヴァンガードでプレイしている時間だけは、全ての苦悩から解放されて、私たちは音楽に没頭することができた」とハーシュは語る。

 「エスペランサは、スポンテニアスであり、リスニング、タイム・センス、表現、とにかく全てが素晴らしい。私たちは20曲以上をプレイし、全てのセットで異なったアプローチでトライした。その中のベスト・テイクを選りすぐり、ヴァーチャルなセット・リストで構成したのが、このアルバムだ。エスペランサが、ストレートなスタンダードを歌った初めての作品となった。“Girl Talk”は、アルバムのハイライトだ。エスペランサは即興でシニカルな歌詞をつけてストーリーを語り、観客を大いに沸かせた。私も触発されて、全てを忘れて長いソロを取った。エンディングには、私の代表曲にノーマ・ウィンストン(ヴォーカル)が詩をつけてくれた“A Wish”。エスペランサは衒いもなく、ストレートに歌ってくれた。2人の奇跡的な瞬間を捉えた、このアルバムは、エスペランサの、まだ知られざる才能のショウケースになったと思う」。2人は、1月からヴァンガードを皮切りに、3週間のアメリカ・ツアーに乗り出す。2人のストーリーは、まだまだ続く。