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廣川 奏(商品統括部)

PEEL DREAM MAGAZINE 『Pad』 Tough Love(2022)

血眼になってカラー盤を探す日々に別れを告げ、黒盤こそ至高といったフェイズに突入した2022年。印象的な作品は多々ありましたが、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン直系のノイジーなギター+甘いボーカルというイメージから一変した、ジョセフ・スティーヴンスのプロジェクトによる3作目を。

ここでは、ハイ・ラマズ(全ての作品をリイシュー希望)やヴァン・ダイク・パークスの様な桃源郷サウンド、チン・ベルナルデスの新作にも通ずる心地よき音世界が展開されており、私のツボにジャストフィット。飽きもせず何度も何度もターンテーブルの上に『Pad』をセットして休日を過ごすのが、いつしか定番のル-ティーンに。同日にリリースされたオールウェイズの新作と交互に聴きまくったものです。

過去作と同様、音楽面での参照点は明確なのにオリジナルでチルいムードが、長引く残暑を過ごしやすくしてくれたのは間違いないと断言できます。ゆるっとしたジャケットもアナログだとより映えますよ(裏ジャケも最高!)。

いつの間にか生活に寄り添って馴染んでいくような、優しい雰囲気を持った一枚。所謂名盤と謳われるような作品の風格はありませんが、自分にとってはとても大切な宝物の様な音楽です。

……とここまで書いてレコード棚を見たら、レイヴェイファーザー・ジョン・ミスティワイズ・ブラッドなどの新譜、サンビートルズのリイシューも最高だったな~と、キリがなく良作が挙げられる幸せな年でした。

 

小畑雄巨(神戸店)

LABI SIFFRE 『Crying, Laughing, Loving, Lying: 50th Anniversary』 Demon/Edsel(2022)

今年は先鋭的な現行ものでいいのもいくつかあったけど、レコード時代の音源をレコードで聴きたいなって気分で、だから70~80年代ものをよく聴いてた気がする。その中でつい最近再発されたこのラビ・シフレのアルバムがめちゃくちゃよくて、ラビって、収録曲をエミネムがサンプリングしたりフリーソウル流れで評価されてる75年の“Remember My Song”しか聴いたことなかってんけど、未聴やったんが恥ずかしいくらいに名作。

本作は72年の3作目で、ギターの弾き語りに近いシンプルな編成による作品。ゴスペルなのか、もしかしたら父親がナイジェリアのひとなんでアフリカ的なものなのかわからんが、いずれにせよブラックミュージックがバックボーンにあるソウルフルなフォークというか、カテゴライズが難しいのだけど、とにかくギターの音色や響きが美しく、柔らかな歌声が時間の流れを忘れさせてくれる。

 

中上雅夫(新宿店)

SLOAN 『Steady』 Yep Roc/Murderecords(2022)

スローンほどの有名バンドが日本盤リリースなしの状況、ジャケもかなり地味である。しかも円安影響?か輸入盤、特にアナログはかなり高額の部類となり購入のハードルが上がりまくっていたのだが、実際に聴いてみるとこのアルバムは彼らの近作の中では群を抜いて素晴らしい作品となっているのは明らかで、世の評価もおおむねそのような感じである。

このアルバムのリリースを知って以降、サブスクなどで騙し騙し購入欲求を抑制していたものの、この後上がることは合っても下がることはないだろう、だから買い時であろうなどという株かなにかと勘違いしているのかよ、というようなマインドにて購入に至る。

普遍的にポップで親しみやすい曲を普遍的なバンドのスタイルにて演奏するということがもはやメインストリームではなくアンダーグラウンド化しているというのは今に始まったことではないのだが、2022年もそのような状況が継続しているということを象徴するようなアルバムである。

 

平井篤紀(新宿店)

VARIOUS ARTISTS 『Piombo: The Crime Soundtracks From The Years Of Lead (1973-1981)』 Decca(2022)

2022年、新宿店でヒットした『Boom! – Italian Jazz Soundtracks At Their Finest』(こっちのLPも最高じゃったわぁ~)の姉妹作。『Boom!』が1950~60年代のイタリア映画を支え、普及した〈伊ジャズ黄金期〉にフォーカスしたコンピに対して、本作『Piombo』は70~80年代初期に量産された、〈イタリア産クライム映画〉のサントラにフォーカスしたコンピ。

伊クライム映画を〈ユーロクライム〉と呼ぶのを目にしますが(実際Amazon Prime Videoで「ユーロクライム!」という伊クライム映画のドキュメンタリーが配信中です)、僕はあえて〈マカロニスプロイテーション〉という呼び方を使わせていただきたい(笑)。

『Piombo』に収録されている曲たちは、疾走感溢れるビートと、(チャカポコ)ワウギターのカッティング、怪しく浮遊するローズピアノのメロディーが織りなす血沸き肉躍るレアグルーヴサウンド! そう、これは同年代のブラックスプロイテーション映画「シャフト」「コフィー」などのサントラや、東映のヤクザ映画「仁義なき戦い」「県警対組織暴力」「御用牙」(こちらは東宝)などのサントラと渡り合うほどの迫力なんですわ!(DJ、ディガーの方でネタ探しとる人がおったら絶対買いの一枚じゃけん、ぜひ!)

また、映画が好きな僕としては収録されている元の映画が視聴困難(配信はほぼ無くDVDは廃盤)なものばかりなのが残念ですが、このLPを聴きながらまだ観ぬ映画のシーンを妄想するのもまたオツな楽しみ方ではないでしょうか。

 

森山慶方(新宿店)

BRUCE SPRINGSTEEN 『Only The Strong Survive』 Columbia/ソニー(2022)

ブルース・スプリングスティーンが青春時代に愛聴・愛唱したソウルミュージックカバー。アナログももちろんよいし、カセットにも入れてラジカセでボワッと聴きたい(「No Nukes」もその伝で気分出ますよ!)。いかにもボスらしい、リスナーの胸をふくらませてくれる、ふところを広げたスケールの大きい歌唱。オリジナルの楽曲やアーティストに敬意を表し、現在のリスナーに偉大なソウルミュージックの素晴らしさを極めてキチンと伝え直したいという意志に、頭が下がります! 自作で明らかなように、〈ゴースト〉と対峙し〈破滅の罠〉をくぐり抜けサバイブする、不可分の厳しい生の営みの中で、愛すべきスウィートソウルミュージックの力を借りてこそ形にできた、幸福感にあふれる今回のディスクへの感謝は測り知れません! ブルース・スプリングスティーンほどのすぐれた音楽家が歌手に徹して作品に奉仕する、私たちリスナーが享受できるその精神と音楽の恵み。何と最高なことでしょうか!!