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岡本太郎のアトリエにて1924年生まれのピアノで録音

――平倉さんには温故知新の一面があるようですね。このニューアルバム『Wheel of Time』でも、歴史的なスタンダードナンバーを集めて、じっくり聴かせてくれますし。

「父親がポール・チェンバースやレイ・ブラウンの大ファンで、よく一緒に演奏したので、子供の頃からスタンダードには自然に親しんでいました。

シンプルなメロディーで歌詞もあって、その中でいかに自分の色を出すかということがスタンダード演奏の面白さだと感じています」

『Wheel of Time』トレーラー

――レコーディング場所は、いまインタビューを行なっている東京・南青山の岡本太郎記念館のアトリエです。アトリエでのレコーディングというのは、なかなかないシチュエーションではないでしょうか。スタジオでもないし、ジャズクラブでもない。同じメンバーによる2022年1月収録のYouTube動画(〈Days of Delight Atelier Concert〉)を拝見しましたが、やっぱり世界のどこにもないユニークな環境です。

「確かにジャズクラブとは全然違うシチュエーションですね。アトリエの独特の空気感が感じられて、新鮮な気持ちで演奏できました。

クラブで演奏する時は、基本的に夜じゃないですか。でもこのレコーディングは午前に集合だったので、めっちゃ早起きしました(笑)。それも新鮮でしたね」

井上陽介+池田篤+平倉初音の〈Days of Delight Atelier Concert〉でのパフォーマンス動画

――共演は、大御所の池田篤さんと井上陽介さん。

「陽介さんは大西順子さんのトリオでずっと活動されていて、順子さんのライブを観に行っていた時に面識を持ちました。初めて演奏したのは去年の10月だったと思います。

平野さんに、YouTube用の収録のお声がけをいただいて、〈誰か一緒に演奏したい人はいる?〉と訊かれたので、陽介さんのお名前を挙げました。池田篤さんのことは、ずっとお名前は知っていましたし、いろんな音源を聴いて〈素晴らしいなあ〉と思っていたんですが、ライブを聴いたのは上京してからです。ぜひ一緒に演奏したいと思い、ご挨拶しました」

――巨匠達と一緒に一つの空間で、ヘッドホンもブースもない状態で演奏した気分は?

「すごく気持ち良かったです。お2人とも私の意思を尊重してくれましたが、音楽的に〈ここはこうしてみたら〉と提案してもくださいますし、とても快適なレコーディングでした」

――ピアノはアトリエにある、1924年生まれのアップライトピアノです(スタインベルク・ベルリン)。あとちょっとで100歳になる、歴史的な楽器ですね。

「アップライトピアノとグランドピアノのタッチや響きの差はもちろんありますが、このピアノはすごく音色が優しいんです。決してキンキン響かないところが、スタンダードを弾くにあたってすごく良い点だなと思いました。私の好きなウィントン・ケリーやソニー・クラークやレッド・ガーランドの音源に近い音を出せるかなとも思いましたし、気持ち良かったですね」 

 

ジャズの言語に精通した3人の演奏が伝える古き良き時代の魅力

――選曲はどのように決めたのでしょうか?

「普段から演奏している、好きなスタンダードをひたすらピックアップしました。1枚目のアルバム(平倉初音トリオの2022年作『tears』)は大半がオリジナル曲の、コンテンポラリーな感じの内容だったので、今回は180度違った感じで録りたいなと思ったんです。

私はコンテンポラリーなものも伝統的なジャズもどちらも好きですし、どちらも自分の姿だと感じています」

『Wheel of Time』収録曲“Embraceable You”

――先に述べた1月の動画では、池田さんが“I Got Rhythm”のコード進行に沿って書いた“Lester! Where Are You?”を演奏していましたが、このアルバムに入っている“I Got Rhythm”はまた、全然違う展開ですね。一種、フリージャズ的というか。

「ドラムがいないからこそ、もっと自由にできるんじゃないかと思いましたし、池田さんも陽介さんもいろんなジャズの言語に精通していますから、全員で同時にソロをとるところから始まってもいいんじゃないかなと思って、このアレンジになりました。お互い、〈誰が最初にテーマを演奏するんだろう〉みたいなスリルがありましたね」

池田篤+平倉初音+井上陽介の〈Days of Delight Atelier Concert〉でのパフォーマンス動画。演奏しているのは“Lester! Where Are You?”

――平倉さんがちょっとストライド奏法をやると井上さんがすかさずスラップ奏法を始めたりと、あうんの呼吸みたいなものを感じました。ジャズの伝統を知っているからこその遊び心というか。

「私が〈こう行きたいな〉と思ったところで、〈そう行くのか〉みたいな感じでついてきてくれるのはさすがだなと思います」

――“Stardust”のような超特大スタンダードであっても、ビビらずに真正面から取り組んでいく……。

「“Stardust”はバースから始めました。これに関しては、私は最初アドリブをとるつもりだったんですが、ちょっと演奏が長くなるし、テーマだけのほうがサラッとしていていいなと思って、テーマだけの演奏にしました。

“Body and Soul”にしても、テーマがすごく美しいですし、あえて何も加えず、旋律の良さを出したいと思って、このアレンジになりました」

――しめくくりは平倉さんのソロ演奏で“Summertime”です。アルバムのラストはソロで行きたかったという感じでしょうか。

「はい。最後はソロの曲を入れたいなと思った時に、“Summertime”が浮かびました。すごいブルージーな曲調で、歌詞にはその時代の背景が感じられますし」

――『Wheel of Time』を通じてスタンダードナンバーの良さ、普遍的な魅力を感じる新しい音楽ファンも多いのではと思います。個人的には平倉さんと同年代のひとに聴いてほしいとも感じました。

「ジャズの古き良き時代の魅力を、このアルバムで感じ取ってもらえたらいいなと思ってます。3月から発売記念ライブも行ないますので、さらに進化した3人の音が出てくるんじゃないかと、私自身も楽しみにしているんです」

 


RELEASE INFORMATION

平倉初音 『Wheel of Time』 Days of Delight(2023)

リリース日:2023年1月31日(火)
品番:DOD-032
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST
1. Embraceable You
2. Days of Wine and Roses
3. Softly as in a Morning Sunrise
4. I Got Rhythm
5. Body and Soul
6. Stardust
7. You Don’t Know What Love Is
8. Invitation
9. Summertime

(2022年5月24日 東京・岡本太郎記念館にて収録)

■演奏者
平倉初音 Hatsune Hirakura piano
池田篤 Atsushi Ikeda alto saxophone
井上陽介 Yosuke Inoue bass