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ウエストランド河本の冷めた目

佐藤「でも、澤部さんから見て、今回のM-1はどうでしたか」

澤部「面白かったんだけど、なんていうか、それこそミルクボーイや錦鯉が優勝したときの変なグルーヴみたいなものはなかったかも。

今回は、たとえば、1組目にカベポスターが出てきて、2組目に真空ジェシカが出てきて、〈ああ、もったいない〉っていう気持ちにどうしてもなっちゃったんだよね。これはもう感覚でしかないから説明しにくいんだけど……やっぱり、どこか引いて見てた。あと、その日は自分のライブがあったっていうのもあるんじゃないかな(笑)」

佐藤「そうでした(笑)。じゃあ、さっきの思い入れじゃないけど、特に推してるような人は今回いなかったんですか」

澤部「それこそ真空ジェシカは好きなんだけど、2組目を引いちゃったのが自分にとっては嫌なハプニングだったんだよね。あとは、ダイヤモンドもキュウもあんまり評価してもらえなかったし……」

佐藤「キュウのときの審査は特に酷かった」

「M-1グランプリ2022」でのキュウのネタ動画

澤部「あれだけの審査員でもやっぱり先入観でものを見ちゃうんだなっていうか、あんなにくだらないことをやってるのに、なにか高尚なものみたいに捉えられちゃってて」

佐藤「本気で感心しちゃうなんて言ってる奴もいて、こりゃだめだと思いました。そういう感心みたいなものが、くだらなさで梯子を外されていくから面白いのにね。コメントでも、口を揃えて〈順番が悪い〉みたいなことしか言えなくて」

澤部「でも順番っていうのはどうしてもあるよ」

佐藤「あったとしても、それを審査員が言い出したら終わりだと思う。そういう曖昧なことしか言えないのに、具体的な数字で優劣を付けるっていうのは、どうなんですか」

澤部「そうだね。まぁでも嫌な言い方だけど、そういううねりみたいなものも含めてM-1になっちゃってるんじゃないの。これは指摘してる人も多いけど、もうM-1という競技になっちゃってるというか。それがまた、やってる側だけじゃなくて見てる側にも共有されてくると、やりきれないんだけど」

佐藤「そうなんですかね。ただ、さっき〈引いて見てた〉と言ってたけど、俺もわりとそんな感じだったんです。でも、その引いて見てられる状態っていうのが、個人的には案外楽しくて。一昨年だったら、やっぱりランジャタイが好きだからどうなるんだろうとか、そういう本筋とは関係ないところでハラハラさせられたりしたんだけど、でも今回は、そういう思い入れみたいなものがあんまりなかったからこそ、むしろ純粋に楽しめたようなところがあって。決勝もみんな好きだったし。ウエストランドが優勝して、やっぱり賛否両論あったみたいですが」

「M-1グランプリ2022」でのウエストランドのネタ動画

澤部「あの勢いのグルーヴというか、それで優勝までいった感じはあるよね。僕は特に(ツッコミの)河本太が好きなんです」

佐藤「いいですよね。何もしてないとか言う奴もいるけど、とんでもないですね。何がいいって、あの上から見下すような目線がいいのね。冷たい視線が」

澤部「そうそう。そこで井口(浩之)さんとの完璧な対比ができあがるから」

佐藤「誰が何を喋ってるかじゃなくて、目線とかそういうものを武器にできるのが漫才なんですね。優勝に対して文句を言ってる人も結構いましたけど……」

澤部「まぁ誰が勝ってもおかしくないっていうのはわかるよ。技術ならさや香、構成ならロングコートダディだろうとか……」

佐藤「一言〈気に食わない〉と言えばすむ話なのに、やれ〈傷つける漫才〉だの、〈社会に悪影響を及ぼす〉だの、真面目な顔して言ってる奴もいるじゃないですか」

澤部「踊らされてるよね、そういう人たちは。お笑いを見てないよ」

佐藤「これはお笑いなんですよ、っていうところから始めなきゃいけないんですかね。それに影響を受けるような社会なら、そっちの方に問題があるのに、誰もそこの話はしないですね」

澤部「ほんとにね。“天城越え”を歌ってる石川さゆりに〈殺さないで!〉って言ってるようなもんだよ」