
Million Wish Collectiveは街の縮図
――20人近くもいたらそう簡単にまとまらないし、絶対思い通りには進まない。それは望んだことでもありましたか。
「うん。社会の縮図みたいな。4人のバンドでもひとつになれないのに、20人とかに増えたら絶対ひとつに向かうなんて無理ですよね。すごく暴力的なことだなっていう自覚もあるんです。(2018年作『Silence Will Speak』収録曲の)“NO GOD”もライブで歌ったけど、神様を全員が信じてないかって言ったらそうではない。背景も家庭の環境も違うから考えはそれぞれじゃないですか。それなのにひとつのリフレインを歌うって、すごく危険なことですよ。
そもそも人が集まるっていうことが怖いことで、拡張していくと街になるし、さらに言えば国になる。大きな集合体になるんだけど、それは結局、噛み合わない人、相容れない人が一緒のところにいるということだから。その不都合さをどうやって愛したらいいんだろうって考えることが、Million Wishでやりたかったことかもしれない」
――このアルバムがめざしたものって、共同体の再編、再構築だと私は思っています。そのテーマはMillion Wishがいたから生まれたのか、それともすでにマヒトさんの頭にあったものなのか。
「んー、いま言ったようにMillion Wishは街の縮図なんで。Millionをやったから、というよりは、こういう世界を生きてきたから向き合わざるをえなかった。その言い方が自分のなかではしっくりくるかな。
共同体って、ほんといまのテーマだと思いますよ。その最たるものが国だし、いままさに国同士が戦争しているわけで。見ず知らずの人、別に恨んでるわけでもない相手と、ただ国が違う、引かれた共同体の名前が違うっていうだけで争い続けてるわけですよね。遠い国の話にかぎらず、戦争状態にあるものは身近なところにもあって。
SNS上でもみんな常に線を引きますよね。〈こちら側とあちら側は違う者同士だ〉って。でも、たとえば〈右派・左派〉みたいな言葉で線を引いて誰かを裁くなんて、そもそも無理な話じゃないかと思う。さっき言ったように、同じ景色を共有してきたメンバーでさえひとつにならないんだから。
だからいま言った、共同体の再編? 別にそのイメージが明確にあったわけじゃないけど、常に議題に上がり続けてることじゃないですかね。どうやって人と関わっていけばいいんだろう、っていうこと」
生きるってことの話をしてる
――昔ながらの共同体って、この時代、意味がないものとしてどんどん解体されてますよね。最小の単位が家族だとして、いまは〈結婚に意味とか感じない〉っていう意見だって珍しくはない。ただ、解体することでみんな自由でハッピーになれたかって言えば、軋みは確実に存在していて。
「そうですね。家族も最初に出会う社会で、その先には学校っていうものがあって。あれも社会の縮図ですよね。コロナのときもライブハウスとかバンドが槍玉に挙げられて。いじめていい存在を、社会は常に欲してますよね。ひとつの問題が解決しても次にすぐ新しい標的が生まれて。
昔の差別的な身分制度みたいなね。下の存在を作ることで〈自分よりもっと下の存在がいる。俺はまだマシだ〉って思えたり。クラスのなかでもその縮図はあって、それは学校を出ても必ずあるんですよね。ずーっと繋がってる」
――不思議なことに、それぞれ個人に訊けば〈いじめは良くない〉って真顔で言うんです。でも集団、共同体のなかではその力が働いてしまう。
「あぁ、その怖さは自分でも感じますよ。自分のなかにある加害性みたいなもの。でも、その果てには人が死ぬ。それを目の前で見せつけられてるから。戦争も社会の縮図が拡張していった結果だと思う。
自分にとってこれは左派とかリベラルとかまったく関係ない、普通の暮らしの話であって。生きるってことの話をしてる。そこに〈NO WAR〉って言葉が入ってくるのは仕方がない」