
シンプルな作曲と岡本太郎の気配
――この編成用の作曲には、どのように取り組まれたのでしょうか。
「この3人で演奏することを前提に曲作りをしたのですが、特に意識したのは、シンプルというか、ミニマムであること。これまでこねくり回すような譜面を書いたこともあったけれど、今回はとにかく無駄をそぎ落とし、シンプルにシンプルに、と。
新曲の多くは飛騨高山で書きました。アルバムを作る時は3、4日ほど休みをとり、気に入った場所にこもって曲を書くことが多いんです。気分を変えて曲作りに集中したいし、自然に触れ合うことでアイディアが出てくることも多いので。
今回はソプラノサックスで吹くことを念頭に曲を書いたわけですが、ソプラノはテナーより1オクターブ高いので、やはりテナー用に書く時とはメロディのレンジが変わるし、ボイシングも違ってくる。今まではあまりそういうことを考えずに曲を書いてきたので、(ソプラノ用の作曲をすることで)すごく勉強になりました。
“Three Principles”は例外的に、レコーディング前日に書いたスケッチを当日デイヴィッドと粟谷くんに渡しただけ。シンプルという意味でいえば、これはもう究極でしたね」
――アルバムの1曲目ですね。
「はい。このバンドの根底にあるものを表すような、本当にモチーフだけをもとにした演奏なんです。メンバー間の信頼感があってこその内容だと思います。演奏の時は皆、先輩とか後輩とかも関係なしに、その瞬間に音楽をやることしか考えていない。そうした風通しのいい環境であれば、あとは自分が考えた素材だけをポッと持っていくだけで、皆がそれを膨らませてくれる。そのマインドが自分の中に生まれてから、どの現場でもリラックスして吹けることが増えた感じがします」
――曲名の“Three Principles”とは〈3つの原則〉という意味でしょうか。
「岡本太郎さんの著書『今日の芸術』からヒントを得ました」
――〈今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない〉というものですね。
「そうです。その3原則は、まさにジャズそのものだと僕は思います」
――そうした楽曲たちを、岡本太郎記念館のアトリエで行われたレコーディングに持ち込んだ……。
「あそこは響きがめっちゃいいので演奏しやすいけど、反面、太郎さんの気配というか独特の雰囲気があるので、軽々しく音を出せない感じもあって、とにかく特別な場所です。
エンジニアの小泉(貴裕)さんにはマイクで録った音と、ピンマイクで録った音をうまくミックスしていただきました。あのアトリエに固有の、いっぱい乱反射しているような音も含まれていて、自然で生々しい響きに仕上がっていると思います」