沖縄の文化的風土の中から満を持して生まれた〈元ちゃん〉の民謡アルバム

 元ちゃんこと前川守賢は沖縄民謡の要素のある曲をポップなアレンジでうたい、エンタテイナーとして大活躍している人だが、このアルバムでは生楽器で民謡を演奏している。

 元ちゃんの父親の守康は照屋林助とワタブーショーというコンビを組んでいた沖縄芝居・漫談の人気者。その縁で彼は、林助と共にマルテル・レコードの作品を制作していた知名定男やその弟子の黒島祐市から民謡を教わった。前者からは沖縄中部の洗練された歌を、後者からは八重山のおおらかな歌を受け継いでいる。

前川守賢 『ちゃーがんじゅう』 RESPECT(2023)

 アルバムは新曲の“踊ゐ三板(サンバで踊ろう)”からはじまる。三板は三枚の小さな板を糸で結んで手に持ち、カスタネットのような音を鳴らす楽器で、この曲はそれを称える歌。田場盛信の三板とひがけい子の島太鼓によるブレイクが美しい。途中ケレレレ・ケッケンとくりかえされる楽しい掛け声は、三板でトレモロを演奏するときの擬音だ。エイサーのかけ声ではじまるもうひとつの新曲“ちゃーがんじゅう”は〈いつも元気〉という意味の人生賛歌。コロナで人に会うこともままならなかった時期を越えるべく健康への願いと祈りがこめられている。

 こうした新曲のように座の気分を盛り上げる歌が得意な人だが、このアルバムでは嘉手苅林昌で知られる“恋語れ”“下千鳥”や小浜守栄の“月と涙”などしっとりとした歌も聞かせる。ベテランの徳原清文とカチャーシーする“早嘉手久節”、若くして亡くなった黒島祐市を偲んで、八重山出身の新良幸人と共演する“デンサ節”をはじめ、饒辺愛子、金城恵子、古謝美佐子、松田弘二ら沖縄民謡を支える人たちが多数ゲストで参加。10歳の娘が元気な声を披露する曲や、阪神淡路大震災がきっかけで生まれた曲もあり、沖縄の文化的風土に支えられて、満を持して生まれた民謡アルバムという気がする。かつては8ビートで演奏されていたデビュー・ヒット曲“かなさんどー”が三絃弾き語りでしっかり民謡化しているのも沖縄ならではだ。