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コラム

混迷極める世界に光を――シガー・ロス(Sigur Rós)が新作『Átta』で目指したサウンドとは?

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ドラムを最小限、浮遊感があり美しく

SIGUR RÓS 『Átta』 BMG(2023)

 彼らにとって10年ぶりのリリースとなる通算8作目の新作『Átta』は、どのような更新/変化を見せた作品なのだろうか。一言でいえば、これまで彼らを形容する際に用いられてきた〈ポスト・ロック〉から〈ポスト・クラシカル〉へ移行しているように見える。そこでポイントとなるのは、シガー・ロスが今作でロック的な要素をかなり廃していることだろう。これはバンドのリズムの要であったオーリー・ディラソンの不幸な形での脱退によるドラムの不在がもたらしたものだ。シガー・ロスがこれまでにさまざまな管弦楽器を用いてサウンドを構築しながらも、それでもロック・バンド然としていたのはオーリーのドラムの存在が大きい。そんな彼がいなくなったあと、シガー・ロスにどんな音楽が作れるのか――それは本作を制作する際に課題のひとつだったことは想像に難くない。

 このアルバムは、2013年にバンドを脱退していたキャータン・スヴェインソン(キーボードほか)が10年以上のときを経て、現在LAに住むヨンシーの元を訪ね、彼の家の地下室でジャム・セッションを繰り広げたのがスタートとなっているという。そこにゲオルグ・ホルム(ベースほか)が加わり、楽曲を練り上げていった。今回のアルバムのコンセプトについてヨンシーは「ドラムは最小限に。音楽はまばらで、浮遊感があり、美しいものにしたかった」と語っている。