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リスナーの旅に寄り添いたい

 90年代から居を構えたロンドンを去り、家族の近くにいたいという思いから故国オーストラリアのメルボルンに戻ったのが昨年の2月。出世作となった長寿ドラマ「ネイバーズ」への客演を挿んで、新作のセッションは同年の7月にスタートしたという。そのうち7曲はUKのリチャード“ビフ”スタナード(のチーム)がプロデュース。セッションはメルボルンをはじめ、英国の各地やクロアチア、パリで行われているが、カイリー自身もロックダウン期間に学んでヴォーカル・エンジニアを務めており、リモート作業も含めて制作の進め方もより自由なスタイルになったようだ(クレジットによると彼女の歌はさまざまな国の〈Infinite Disco Studio〉で録音されている)。

 「コラボレーターたちと一緒にスタジオへ戻るのは最高の気分だったけど、リモートの恩恵も活かすことができたのは、みんなもうすっかり慣れたからだと思う。1年半の間、私の〈モバイル・スタジオ〉が私のそばを離れることはなかった!」。

 往年のスパイス・ガールズらを手掛け、カイリーとはパーロフォン時代から“In Your Eyes”などを制作してきたビフは、配下のダック・ブラックウェルやジョン・グリーンも絡めながら硬軟自在に楽曲を制作。80年代的なシンセ・ポップ、90年代のハウス、00年代のエレクトロ、ユーロダンスなども出し入れする手腕はカイリーと同時代を長く活躍してきたヴェテランならではだろう。

 他にもデンマークはコペンハーゲンの重鎮カットファーザーらが“Hands”を手掛け、同曲にも関わったPhDが“Green Light”を提供するなど、これまでも縁のあった職人たちが参加。現時点では未聴ながら、デラックス版にはオージェイズの同名曲を引用したと思しき“Love Train”など3曲のボーナトラックも収録されており、今回も隅々まで楽しませてくれることは間違いないだろう。

 「このアルバムは、私が書いた曲と私の心に響いた曲をミックスしたもの。つまり、個人的な内省、クラブへの傾倒、メランコリックな昂揚感を融合したものです。アルバムを作ることで、私は困難な時代を進みながらも現在を祝福することができるようになりました。このアルバムがリスナーの旅に寄り添い、みんなのストーリーの一部になれることを願っています」。

カイリーの作品。
左から、88年作『Kylie』、89年作『Enjoy Yourself』、90年作『Rhythm Of Love』、91年作『Let's Get to It』(すべてPWL)、94年作『Kylie Minogue』、97年作『Impossible Princess』(共にDeconstruction)、2000年作『Light Years』(Parlophone)

21世紀のカイリー作品を紹介。
左から、2001年作『Fever』、2003年作『Body Language』、2007年作『X』、2010年作『Aphrodite』、2014年作『Kiss Me Once』(すべてParlophone)、2018年作『Golden』(Darenote/BMG)