花の歌を中心に――コロナ禍に勇気づけられた日本の四季や自然への想い
ソプラノ歌手の幸田浩子が新アルバム『花のまち ~日本のうたIII~』を発表した。自身3枚目となる日本歌曲のCDだが、この作品が生まれた背景には、歌手にとって大きな試練の時期となった新型コロナウイルス禍での経験がある。
「コロナでぽっかり3年間穴が開いた感じでした。2枚目の日本歌曲のCD『このみち』を2020年1月に出したのですが、まさにコロナが蔓延する直前。その後コロナが一気に拡大して芸術活動が止まりました。しばらくは何もできませんでしたが、その時考えたのが、こういう状況でも花が咲いては散り、木々は緑になり、風が吹き、季節は巡り、土に帰るということ。人と会えない中でも日本の四季や自然に勇気づけられ、今度は花の歌を中心に歌いたいと思いました」
収録曲は“さくらさくら”のような誰もが知る有名歌曲から林光、伊福部昭など著名な日本の作曲家、現在第一線で活躍するピアニスト・作曲家の加藤昌則の作品まで幅広い。共演したのは作曲家・ピアニストの寺嶋陸也だ。
「寺嶋さんは林さん、湯浅譲二さん、池辺晋一郎さんなど日本の作曲家の作品に造詣が深く、最新の音楽にも詳しいので選曲の際に助けられました。林さんの“挿木をする”などはほとんど知られていませんが、コンセプトが素敵で曲や詩も素晴らしい。寺嶋さん作曲の“星の旅”(詩:谷川俊太郎)は、船上で見る満天の星が思い浮かびます。また、寺嶋さんはピアノで詩人のような言葉の世界を表現できる。心情に触れ、心に寄り添える。咲いた花の様子が嬉しそうなのか切ないのか。深く彩りある世界、心情を見せてくれ、心の襞に触れる感じがします」
日本歌曲のアルバムを出すようになったきっかけは、2011年3月11日の東日本大震災だった。
「震災後、私も何かできることはないかと現地でチャリティーコンサートに出演したのですが、ある公演で最後に“ふるさと”を聴衆の皆さんと歌いました。すると会場に優しいエネルギーが満ち溢れた。この想いを皆さんと共有したいと強く思いました。歌の力、祈りの力ですね。私はR・シュトラウスやシューベルトの音楽も大好きですが、やはり日本の歌曲がお客さんにダイレクトに伝わる。今は思考が個人個人でバラバラなので皆で歌える歌が減っていますが、そういう時代だからこそ、一緒に歌える歌があっていい。これからもライフワークとして、日本の曲の奥深さを伝えたいです」
LIVE INFORMATION
全国共同制作オペラ J.シュトラウスII世 喜歌劇『こうもり』
2023年11月19日(日)滋賀・滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
開演:14:00
2023年11月25日(土)東京・東京芸術劇場
開演:14:00
2023年12月17日(日)山形・やまぎん県民ホール
開演:14:00
幸田浩子ソプラノ・リサイタル
2024年月1月21日(日)埼玉・川口総合文化センター・リリア 音楽ホール
開演:14:00