
小日向由衣、失踪?
――曲作りはメンタルが落ち着いてるほうができるんですか? 逆に追い込まれてるほうができるとか?
小日向「私は期限が決まってないと作れないですね。そうすると自分に負荷をかけられるから作れるんですけど。『世界が泣いてる』のあと、毎年誕生日にこだわってアルバムを必ず出すんじゃなくて曲が揃ったら出そう、納得がいったときに作ろうと思ってたら、私、一向にやらなくて」
――イベントのために新曲を作るとか、何か企画がないと曲が増えないわけですね。
小日向「SHAKE(シャケ)って場所でライブをするから“シャケのベイビーはいくら”(2022年)を作ろうみたいな」
――“もしも魔法が使えたら”も対バン企画※で作った曲ですよね。
小日向「そうです、イベントに向けて魔法をテーマにした曲を作ろうって話になって、考えて作った曲で。
1小節や1コーラスの断片や言葉の種はいっぱい溜めてたんですよ。でも、どんな曲を作りたいかを考えて、それらを組み合わせて形にする作業は追い込まれないとできなくて」
――ところが、今回は追い込まれてもできなかった。
小日向「はい……。もともと今回は『世界は泣いてる』よりポップで明るいものを作りたいと思ってたんです。前作を作り終わったあと、私、〈次は恋愛ソングのアルバムを作りたい〉ってインタビューで語ってたんですね。結果、ハッピーな恋愛ソングは作れなかったんですが」
――前作同様、暗いオーラが漂ってますよ(笑)。
小日向「ちょっと明るくなったかもしれませんが、根本は変わらなかったんですね(笑)。ハッピーでマシな未来が見えるようなものを作りたいって考えると落ち込むんです」
――なぜ?
小日向「そんなもの、あるのか?って(笑)」
――ダハハハ! 小日向さんは暗い曲を作ったときに魅力を発揮するタイプだから、無理に明るい曲を作る必要はなくて、暗い中にちょっと希望が見えればいいぐらいのバランスでやればいいと思うんですけどね。
小日向「でも今回はレベルが違ってて、出てくる歌詞が〈逃げたい!〉〈消えたい!〉〈嫌い!〉〈やめたい!〉とか、そんな感じだったんです。そんなのを並べたところで何にも面白くない。病んでる人の定型文みたいなのしか生まれなくて。心がおかしくなってたから、言葉が何にも膨らまないんですよ。
困りきって、ホントに遠くに逃げようかなって思って。で、〈小日向由衣、失踪!〉みたいな記事の見出しを勝手に想像して(笑)」

曲作りはやめられない!
――それでも小日向さんの日記を読んでると、日々のライブで救われているように感じました。
小日向「そうなんですよ! ライブをするたびに〈生きよう!〉って思えて。私の曲を待ってくれてる人がいるって感じられるんです。もちろん目に見える人たちだけが全てじゃないし、サブスクで聴いてくれてる人たちがいるのもわかってる。まだ届いてないだけで、これから聴いてくれる人たちもいるって信じてる部分もあります。だけど、やっぱそれじゃ弱いんです! 見えないものを信じるのって難しくて」
――人と会わずレコーディングに専念してたら、どんどん暗いほうに引きずられちゃうんですね。
小日向「そんなときにライブに来てくれて、私がこんなに苦しんでるとはつゆ知らず(笑)。〈楽しかったよ〉って言ってくれる人たちをこの目で見ると確信を得られるんです。〈アルバムできたよ〉って言ったら、この人たちは楽しみにしてくれる、ワクワクしてくれるって。4、5組が出る平日の対バンイベントに来てくれる人たちなんて、アルバムを聴いてくれるに決まってるじゃないですか。その人たちの前でライブをやる意義をすごい感じて、そこで得たものを持って帰る、みたいな感じでした。……どうしちゃったんでしょうね、私?」
――どうもしないですよ。いつもの小日向さんです。
小日向「けど、ホントに辛かったの」
――それでも、ちゃんとアルバムを完成させられたわけじゃないですか。
小日向「結果、できるんですよね。長崎遠征※が楽しかったあたりから少しずつ、やれそうな気がするって思って。
〈急に曲がいっぱいできたんだね〉〈短期期間で作ったんですね〉って思われがちなんですけど、2年前からずーっと溜めてて、アルバムタイトルも〈恋愛ハラスメント〉にしたいって決めてたんだけど、最終的に出口を見つけてやっと完成させられたって感じなんです」
――それだけ苦戦してたのに〈楽しい! 曲作るのやめられない! 達成感!!!!〉と呑気にツイートしてました(笑)。
小日向「苦労したぶん、ちゃんと見返りがあったんです(笑)! しかも、すごく満足のいく曲を作れたんですよ。苦しかったけど妥協はしてないし、ポップなメロディを書けたし。歌詞はレコーディング当日のイベント中にも考えてて、〈これだ!〉って言葉を見つけられて芋づる式にできていって、すっきりしました!」
――曲作りはやめられない?
小日向「やめられないですね。結局また作ってしまうんです。中毒ですよね。自分を痛めつけて私は何をしてるんだろう(笑)?
マスタリングが終わってすっごい満足しちゃって〈やった~! できた~! 終わった~!〉みたいなツイートをしたら、平澤さん(平澤直孝。なりすレコード主宰)に〈こっちはまだ終わってないんだよ!〉って怒られて(笑)。私が引っ張ったぶん、他の作業が全部うしろ倒しになってたんです(笑)」