
ライヴのビリーはロックンローラー
ビリーのライヴの醍醐味と言ったら、根っからのロックンローラーっぷりが鮮やかに際立つところだ。火を噴くようなバンピンなプレイを繰り広げるそのワイルドなアクションは、ピアノに跨り、喧騒が渦巻くライヴの前線で数々の名演を生み出してきたリトル・リチャードやジェリー・リー・ルイスというロックの覇者たちを思い起こさせるものがあり、いつだって熱くならずにはいられない。例えば本作で言うと、ロングアイランド公演での“Pressure”とかには、スーツにスニーカーという出で立ちでステージ上をハツラツと駆け回るビリーの姿が浮かび上がってきて、ワクワクが止まらなくなる。それから、全盛期を支え続けた〈ビリー・ジョエル・バンド〉との掛け合いも最高だ。なかでも、ビリーと長く確執状態が続いていたリバティ・デヴィートのドラミング。しっとりしたバラードであろうが関係なくビシバシとしばき倒していく彼のプレイはビリーのサウンドに人間臭さを注入し、凡百のラウンジ・シンガーとは一線を画す世界へと彼を導いたのだった。フィル・スペクター調の“Say Goodbye To Hollywood”での宙を駆けるようなタム廻しとかもたまんない!



アルバムの構成についても少し触れたい。配信版のオリジナルとは異なり、エンディングに“Piano Man”を配置したことでアルバムに流れる物語性が一段と強まり、〈ライヴ稼業は続くよどこまでも〉みたいなタイトルの人情ドラマを観た気分になるというか、後味が実に良い。
恒例となっていたNYマジソン・スクエア・ガーデン公演が、2024年7月の150回目をもって終了する、なんて発表もあった。彼も来年で75歳。〈去り際を美しく飾りたい〉という意識もよりいっそう高まっているのだろう。今度こそ本当に終止符が打たれるかもしれない。ビリーがステージ上から笑顔を振りまく光景が当たり前のものではなくなることに、きちんと向き合っておく必要がある。そう肝に銘じる意味でも、この冬はビリーの雄姿をしっかり焼き付けておかないといけない、心底そう感じる。


忘れちゃいけない、ビリーをスクリーンで拝む機会も用意されていることも伝えておかねば。2011年の映像作品「ライヴ・アット・シェイ・スタジアム」が来日の前夜祭として特別に劇場公開されるのだ。 2009年、ニューヨーク・メッツの本拠地、シェイ・スタジアムが大きな役目を終える際、ラスト登板という重要な任務を担ったのがビリー。NYっ子の気概を颯爽と示してみせた本ライヴは、トニー・ベネットとデュエットを披露する“New York State Of Mind”など名場面が満載となっているが、やはりハイライトはポール・マッカートニーとの共演となろう。同会場において史上初となる野球場でのコンサートを実施したのは、何を隠そうビートルズであった(なおポールは新球場になったシティ・フィールドのこけら落とし公演を任されていた)。永遠のヒーローを前にして、いつもにも増して音楽愛を大きく膨らませるビリーの姿をぜひ大画面で堪能したい。
「ライヴ・アット・シェイ・スタジアム」特別劇場公開!

ビートルズが65年に史上初の野球場コンサートを開催して以来、2009年に取り壊しになるまで多くのライヴを行われたニューヨーク・メッツの本拠地、シェイ・スタジアム。同会場での最後の公演として2008年7月16日と18日に開催され、計11万枚のチケットを45分で完売させたのがビリー・ジョエルの〈Last Play At Shea!〉だ。そんな歴史的な公演が、2024年のビリー・ジョエル来日を記念して、映画館に2夜限定で甦る。
【出演】ビリー・ジョエル、トニー・ベネット、ジョン・メイヤー、ドン・ヘンリー、ジョン・メレンキャンプ、ガース・ブルックス、スティーヴン・タイラー、ロジャー・ダルトリー、ポール・マッカートニー
【監督】ジョン・スモール
【編集】ローラ・ヤング
2024年12月25日(月)・28日(木)2夜限定で公開 TOHOシネマズ 日本橋ほか
https://www.culture-ville.jp/billyjoel

LIVE INFORMATION
【来日公演】ONE NIGHT ONLY IN JAPAN BILLY JOEL IN CONCERT
2024年1月24日(水)東京ドーム
https://billyjoel2024.udo.jp/