アニソン歌手のあるべき姿を貫いたキラキラな歌!

 メガネとアニメソングが、彼の人生を一変させた。Sound Scheduleのヴォーカル/ギターとしてバンド・シーンで活躍していた大石昌良が、バンドの解散(現在は再結成)~ソロ活動を経て、アニメ/ゲーム・コンテンツ向けの別名義、オーイシマサヨシとして活動を始めたのが、2014年6月のこと。伊達メガネをかけて〈アニソン界のおしゃべりクソメガネ〉と名乗るようになってから10年、いまや数多くのアニメ主題歌を手掛けるシンガー/クリエイターとして、アニソン界になくてはならない存在となった。2年半ぶり通算2作目となる今回のアルバム『ユニバース』も、自身の提供楽曲のセルフ・カヴァーを含め、12曲すべてがタイアップ曲という充実作になった。

 「僕はもともとバンドマンで、アニソンの世界に入ったのは30代になってからだったし、昔からアニメ好きでアニソンを神格化しているところがあったので、この業界で活動することに対して畏れ多い気持ちがあったんです。その感覚は前作『エンターテイナー』の頃にもまだあったのですが、長く活動しているうちに、周りの方たちやアニメ・ファンの皆さんが神輿を担いでくださって、最近ようやくアニソン・シンガーとしての自覚が芽生えてきたんです……10年目にしていまさらかよ!って感じですけど(笑)。なので、いまはより濃いアニソンを作れていると思いますし、自分の中の〈アニソン・シンガーはかくあるべき〉というものが色濃く出たアルバムになりました」。

オーイシマサヨシ 『ユニバース』 ポニーキャニオン(2024)

 アルバムの1曲目を飾る劇場版「グリッドマン ユニバース」の主題歌“uni-verse”から引用しつつ、「とにかく濃い楽曲ばかりなので、それをまとめる言葉が〈宇宙〉くらいしか浮かばなくて(笑)」ということで『ユニバース』と名付けられた本作には、あくまでもオーイシ流にアニソンらしさを追求した楽曲がズラリと並ぶ。

 「最近は作品のタイトルを楽曲内で回収していくことを意識していて。例えば『勇者が死んだ!』という作品の主題歌で〈死んだ!〉という言葉を使うのは勇気がいると思うんですけど、あえてそれを曲名にして、〈タイトルを連呼するアニソン〉を今風にアップデートしながらやっています。いまはJ-Popのアーティストさんも作品に対しての解像度が非常に高いアニソンを作るようになったなかで、自分はそことは違うアニソンの在り方や視点、それこそかつての深夜アニメ勢が持っていた文脈とかを守っていきたい気持ちがありますね」。

 電力会社のJ-POWERとのコラボ曲“エレクトリックパレード”では、ヴォコーダー入りの80s風シンセ・ファンクで電気のありがたみを伝えたかと思えば(あえてデスクトップの機材=パソコンの電気だけで作り上げたという)、アニメ映画「クラメルカガリ」の主題歌“僕らの箱庭”では作品の大正レトロ~和製スチーム・パンク的な世界観に合わせて、エレクトロ・スウィング × 昭和歌謡風メロディーを採り入れるなど、サウンド面での引き出しの多さは言わずもがな。熱い曲から楽しい曲までさまざまだが、一貫しているのは、どの楽曲もポジティヴな輝きに満ち溢れていることだ。

 「僕にお声掛けいただくアニメの主題歌はポジティヴ系や爽やか系が多いというのもありますけど、それが1つのカラーになっているとは思っていて。ありがたいことに〈オーイシマサヨシが歌ったら陰も光になる〉と言っていただくこともありますし、いまは内省的だったり病んだりしている曲が流行りがちななかで、キラキラした楽曲を書き続けるのも自分の役割としてアリだなと思っていて。今後も自分なりに光を放っていけたらと思いますし、今年は武道館ライヴもあるので、いろんな人たちにオーイシマサヨシを知ってもらえる一年にしたいです」。

オーイシマサヨシの作品を一部紹介。
左から、2017年のセルフ・カヴァー・アルバム『仮歌』(TIME IS MONEY/Flying Pan)、2019年のセルフ・カヴァー・アルバム『仮歌II」(TIME IS MONEY)、2021年作『エンターテイナー』(ポニーキャニオン)

大石昌良の提供した楽曲を含む近年の作品を一部紹介。
左から、上坂すみれの2023年のシングル“ハッピーエンドプリンセス”(キング)、Geroの2023年作『THE ORIGIN』(ユニバーサル)、CUBERSの2023年作『MAJOR OF CUBERS 2』(キング)