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シド・バレット
​©︎2023 A CAT CALLED ROVER. ALL RIGHTS RESERVED.
©Syd Barrett Music Ltd
©Aubrey Powell_Hipgnosis

60年代ロンドンを生きた友人同士が語り合う

――この映画はストームがインタビュアーを務めていることが重要ですね。ピンク・フロイドのメンバーをはじめ、みんなストームに心を開いているので、シドへの嘘のない気持ちが伝わってきました。

「思い出を引き出すために、心を開いてもらうために、どういう風に質問をすればいいのか、ストームと話し合いました。とくにミュージシャンはインタビューで同じ答えを言いがちなので、どれだけ誠実にインタビューに答えてくれるかが重要だったのです。ストームがインタビューした相手は、昔からお互いによく知っている間柄なのでストームに嘘をつくことができない。そこが面白いところだと思います。

ストームが亡くなった後に私がやった取材でも、相手は私がストームと一緒に映画を作っていることを知って信頼して話を訊かせてくれました。そして、今まで世に出ていない写真や映像を提供してくれたんです。シドの婚約者だったゲイラ(・ピニオン)は、シドから送られた婚約指輪まで見せてくれました」

――ピンク・フロイドの他のメンバーと対立したりして、気難しいイメージがあるロジャー・ウォーターズが、ずっとにこやかに話をしていたのも印象的でした。

「ロジャーとストームとシドは学生時代からの友人でしたからね。彼らが語ってくれた60年代のロンドンというのは、かなり文化的に特殊な時代でした。同じ時代を生きた友人同士が語り合うことで、思い出が蘇って目が輝いてくる。

今回、ストームがインタビューをかって出たのは、死期を悟って友人たちに別れを告げたいという気持ちがあったのではないかと思います」

 

ピンク・フロイド
​©︎2023 A CAT CALLED ROVER. ALL RIGHTS RESERVED.
©Syd Barrett Music Ltd
©Aubrey Powell_Hipgnosis

脱退後もバンドのミューズであり続けたのはシドだけ

――シドが脱退した後、ピンク・フロイドは大きな成功を収めます。そして、シドを題材にした曲“Shine On You Crazy Diamond”のミックスをしている時に、スタジオにシドが突然現れたというのは有名なエピソードですが、その時のことが現場にいた人たちによって語られるのも感慨深かったです。

「その時のことを当事者が詳しく語っている映画や文献はあまりありませんからね。当事者が感情をあらわにして振り返るシーンは本作のハイライトのひとつだと思います。

フィル・テイラーというデヴィッド・ギルモアのギターテクニシャンがいるのですが、彼が現場の様子をカメラで撮っていたことを、ある本でちらっと書いていたんです。そこでフィルに連絡をして、映画で写真を使わせてもらえないか交渉しました。彼は本を書く予定で、そこに写真を使いたいので映画に提供するのは難しいと言っていたのですが、粘り強く交渉して数枚使わせてもらいました。なかでも、ロジャー・ウォーターズとシドがミキシングテーブルで2人並んで写っている写真は貴重だと思います」

――映画を観て、脱退後もシドの存在がバンドに大きな影響を与えていたことが改めてわかりました。

「ピンク・フロイドが世界的に有名になったのはシドが脱退してからです。しかし、ピンク・フロイドは『炎〜あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)』(75年)や『The Wall』(79年)などでシドを題材にした曲を書いています。ピンク・フロイド以外のバンドにも、シドのようなカリスマ的なメンバーはいました。例えばローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズやフリートウッド・マックのピーター・グリーンのように。でも、メンバーは彼らを題材にした曲を書いてはいない。脱退後もバンドのミューズ的な存在であり続けているのはシドだけではないでしょうか」

PINK FLOYD 『Wish You Were Here』 Harvest(1975)

PINK FLOYD 『The Wall』 Harvest(1979)

――映画の冒頭に唯一、シドの肉声のインタビューが使われています。あのインタビューはどういう音源で、なぜそれを使用しようと思われたのでしょうか。

「あれは67年のインタビュー音源で、これまでピンク・フロイドのファンサイトにもアップされていたのですが、不思議とドキュメンタリー作品には使われていなかったんです。あのインタビューを聞くと、シドは67年の時点でバンドを去って、音楽をやめて絵画に戻ることを考えている。当時の彼の心境を素直に語っていて興味深いと思ったんです。本作ではこれまでのキュメンタリー作品では使われていなかった映像や音声を使うことを心がけていて、この音声もそのひとつです」