スラッシュの自由奔放なギター・プレイに浸りたい!!
2024年の春に世に出た『Orgy Of The Damned』はスラッシュにとって実に14年ぶりとなる個人名義でのアルバムであると同時に、彼ならではのスタイルでブルースに取り組んだ作品であり、AC/DCのブライアン・ジョンソン、エアロスミスのスティーヴン・タイラーをはじめとするゲスト陣の豪華さも話題を集めた。そして本作『Live At The S.E.R.P.E.N.T Festival』は、その流れを汲みながら彼自身が主催する形で同年夏に北米で実施されたフェス形式の全23公演に及ぶツアー〈S.E.R.P.E.N.T. Festival〉のうち7月17日のコロラド公演の模様が完全収録された2枚組ライヴ盤である。

演奏された楽曲の大半は『Orgy Of The Damned』にも収められていたブルースの名曲たちだが、同作には未収録だったジミ・ヘンドリックスの“Stone Free”、ボブ・ディランの“It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry”などを聴くことができる点は見逃せない。スラッシュの脇を固めているのは、彼が90年代後半に〈夜通し飲んだくれながらプレイできる場〉として設けたスラッシュズ・ブルースボールの面々で、ヴォーカルもその一員であるタッシュ・ニールが担当している。
当然ながら最大の聴きどころはスラッシュ自身の自由度の高い演奏ぶりで、ガンズ・アンド・ローゼズでは各楽曲において求められる枠内で輝きを放っている彼が、檻から解き放たれ、時間制限のない環境で、ギターと一体化しながら感情を吐き出しているかのようなコントラストが感じられる。もちろんガンズでの彼が窮屈そうだという意味ではなく、双方の魅力を併せ持っているのが彼の特色だ。同時に、ブルースに対する探究心を忘れることのない彼が6本の弦を掻き鳴らせば、その音像はおのずとハードな質感のロックになる。どっぷりとブルージーすぎるのは少々苦手だがスラッシュのギターは好き、というリスナーも少なくないはずだが、そのこと自体が彼自身の立ち位置を物語っているように思う。10分前後の長尺で演奏されている楽曲も複数あるが、そこで過度に渋くなることがないのも彼ならではの魅力だ。
なお本作の完全生産限定盤は、ライヴの模様とインタヴューを軸に約100分間のドキュメンタリーを収めたBlu-rayを含む3枚組となっている。このブルース・ロックの洪水を立体的に味わううえでも、こちらの限定盤をお薦めしておきたい。
左から、スラッシュの2024年作『Orgy Of The Damned』(Gibson)、ヴェルヴェット・リヴォルヴァーの2004年作の20周年記念盤『Contraband (20th Anniversary)』(RCA/Legacy)