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©Adam Faraday

勇気が必要

 また、本作で紡がれる詩世界は実に力強さに溢れている。対訳付きの歌詞カードを心待ちにされている方のために一部を取り上げて解説するようなことは控えるが、一点だけ記すとするならば、実はポーティスヘッドの3作目『Third』のエンディングを飾る曲“Threads”で繰り返し〈疲れ果てて消耗している〉と歌われていたフレーズへの直接的なアンサーが用意されている。

 〈何の疑問も持たずに、私は始めようとした/絶対に勝てないかもしれないということを無視しようとした/なぜなら私の心は疲れ、消耗していたから〉――これは本作収録曲“Oceans”の一節であるが、こうして過去の自分と向き合い、止まっていた時計の針をふたたび動かすようにして乗り越えるまでにはベス自身の心境の変化、そしてもちろん人間としての成長と再生が大きく関係している。

 「人は死に近づいていく。若いときは結末がどうなるかなんて考えないし、人生がどう転んでいくかもわからない。私たちはただ困難を乗り越えられると信じ、状況もきっと良くなると思うけど、なかにはやっぱり受け入れ難い結末もある。長いトンネルから抜け出した今はただ、勇気が必要だと思うの。希望のない人生がどんなものかということに気付いたのよ」。

 アルバムに先駆けて先行カットされたシングル“Reaching Out”には華美を削ぎ落としたサウンドからはおよそ想像もつかないイメージのインタラクティヴなMVが発表されている。キネティックな空間風景のなかを浮遊するベスの4Dモデルが登場するという、こうした新たな試みも彼女の述べる〈勇気〉や〈希望〉と理解することができるだろう。願わくば、長らく制作中であるはずのポーティスヘッド本隊のリリースにも淡い期待をしつつ、メディア嫌いな彼女がバイアスなしにファンと直接繋がりが持てる時代に今後どのようなアクションを起こしてくれるのかにも大いに期待だ。まずは出演がアナウンスされたばかりの〈フジロック〉のステージを楽しみに待ちながら本作をとくと堪能し、そのメッセージにしっかりと耳を傾けてみてほしい。 *野村有正

左から、ベス・ギボンズとポーランド国立放送交響楽団がクシシュトフ・ペンデレツキの指揮で2014年に録音したライヴ盤『Henryk Gorecki: Symphony No. 3 "Symphony Of Sorrowful Songs"』(Domino)、ケンドリック・ラマーの2022年作『Mr. Morale & The Big Steppers』(Top Dawg/Aftermath/Interscope)