
一番コピーしたのはジョニー・ウィンターじゃないかな
――“part IV”ではスライド奏法も織り交ぜたプレイが聴けます。これがまた刺激的です。
「〈カントリーブルースマンがちょっとフリージャズっぽいことをやっている〉というイメージで演奏しました」
――鬼怒さんが思い入れのあるブルースマンは?
「一番コピーしたのはジョニー・ウィンターじゃないかな。彼は、実はカントリーブルースみたいな演奏もめちゃめちゃうまいんですよね。とても音がとりやすいこともあって、ずいぶんコピーしました。
もちろんブラインド・レモン・ジェファーソンなどの伝説的なブルースマンの録音も聴いてきましたが、たとえばピッチとかタイミングとか、やはりちょっとやそっとでは近づけません」

僕がこだわるのは肉体的な演奏とセッティング
――アルバムからは、ブルースに加え、ロック、ジャズ、カントリー、ジグなどの要素も感じました。鬼怒さんのエクレクティック(折衷的)な魅力が、アコースティックソロでも表現されている感じです。
「僕はいろんなジャンルのミュージシャンと演奏する機会が多いんですが、そういう方たちは本当にそのジャンルに命を賭けているという感じで、たとえばタンゴを演奏する方は本当に寝ても覚めてもタンゴのことしか考えてないんですよ。結局そのくらい好きじゃないと、ひとつのジャンルを極めることはできないんですよね。そう考えると、さまざまな音楽と付き合ってきた僕は、何か特定のジャンルを極めるタイプのミュージシャンとはちょっと違う。
ギターについても……弾くことはすごく好きだけど、集めたり所有したりすることにはほとんど頓着がありません。好きな人は楽器の話をすると止まらなくなりますから、対照的ですよね。
僕がこだわっているのは、楽器そのものより肉体的な演奏方法と、それに見合った楽器のセッティングです。出したい音のイメージは明確にあって、その頭の中の音に近づけるための弾き方をするとともに、それに見合った楽器のセッティングを探すという……」

良い音を出すことが僕に課された責任
――たとえばバンドで即興すると、他の音楽家に触発されて、新しいフレーズが出てくることもあるんじゃないかと思うのですが、ソロの場合はどうなのでしょうか? 今回は岡本太郎さんのアトリエでの収録なので、そこにある太郎さんの作品が目に入るとフレーズが突然変わるとか。
「そこまでの余裕はさすがにないです(笑)。演奏中は本当にもう、音のことしか考えていない。良い音を出すことが僕に課された責任ですから」
――自分の内側にあるものにインスピレーションを受ける感じですか?
「演奏しながら、〈そういえば、昔、こういうアプローチをやってたな〉と思い出すこともあるし、〈この間聴いた、あんな感じでやってみようかな〉と考えることもあったり。まあ結局そうやって出てくるものって、すべて自分の中にあるものだけですよね。
若いときはとにかく、〈他人がやってないことをやろう〉とひたすら追求していました。でも、〈こんなギターを弾いてる奴はいないだろう〉と自分のCDを聴いているうちに、〈あれ? コレ、なんかロバート・フリップに似てないか?〉とがっかりしたり……(笑)。だんだん年を取ってくるにつれて、誰もやっていなそうなことへ意固地にこだわらなくなりました。
実は今、〈これまでの人生で一番やっているんじゃないか〉というぐらい熱心に取り組んでいるのが基礎練習なんです。いろんなギタリストの演奏を聴いて〈うまいなあ〉と感じることはありますが、自分は自分にできることしかやれませんから、それを精密にやっていきたいという一心です」