エミネムが5月末にリリースしたひさびさの新曲“Houdini”が、注目を集めている。同曲は各チャートで1位、Billboard Hot 100で2位になるなど相変わらずの無双っぷりで、スティーヴ・ミラー・バンド“Abracadabra”のサンプリングも話題だが、物議を醸しているのがリリックの内容。悪童スリム・シェイディの帰還など初期キャリアを思わせるラップナンバーに、音楽ブロガーのアボかどが迫った。 *Mikiki編集部
ディス合戦の年に投じた、ひさびさのソロ新曲
ケンドリック・ラマーとドレイクの2人を中心に、ディスの話題が大きな注目を集めた2024年上半期。ディスといえばこの人、エミネムが新曲“Houdini”で帰ってきた。同曲は新たなアルバム『The Death Of Slim Shady (Coup De Grâce)』からの先行シングル。オリジナルアルバムとしては前作『Music To Be Murdered By』(2020年)からは4年が経っており、シングルとしてもスヌープ・ドッグとの“From The D 2 The LBC”以来2年ぶりとなる。元々師匠のドクター・ドレーと同じくハイペースで作品を発表するタイプではないが、まさに〈帰ってきた〉という感じである。
しかし、エミネムは前作のリリース後、休暇を取っていたわけではない。2022年にはドクター・ドレーらと共に出演したハーフタイムショーが大きな話題となったし、音源の面でも2022年には2002年作『The Eminem Show』のエクスパンデッドエディションとベストアルバム『Curtain Call 2』、2023年には2013年作『The Marshall Mathers LP 2』のエクスパンデッドエディションのリリースがあった。また、ナズ“EPMD”やコーデー“Parables (Remix)”などへの客演があったし、今年に入ってからもリリカル・レモネード“Doomsday Pt. 2”で切れ味鋭いラップを披露したばかりだ。
スリム・シェイディの帰還――回帰ムードのビートとラップ
これら前作リリース後の動きを見ていくと、全体的に回帰ムードが漂っていることに気付く。過去作品のエクスパンデッドエディションやベストアルバムのリリースはストレートに振り返りだし、“Doomsday Pt. 2”もエミネムの過去曲“Roll Model”をサンプリングしていた。
今回リリースした“Houdini”も同じ〈回帰〉の流れに位置付けられるような楽曲だ。プロデュースはエミネム自身と、長年の制作パートナーであるルイス・レストが担当。『The Eminem Show』に入っていそうな、“Without Me”タイプビートに仕上げている。冒頭のマネージャーのポール・ローゼンバーグによるスキットも過去作を彷彿とさせるし、“Without Me”や“Just Lose It”で聴かせてきた〈戻ってきたのは誰 戻ってきたのは/シェイディが帰ってきた 友達に伝えて〉というラインも再利用。随所で聴かせるスクラッチっぽいフレーズはデビューシングル“My Name Is”っぽいし、何よりもラップ自体が近年の鬼気迫る〈上手すぎる〉ラップではなく、どこかリラックスした1990年代後半から2000年代前半にかけてのエミネムを思わせるラップである。