もうおわかりだろう。ライヒは、この曲において人類史上初の原爆実験がおこなわれた〈砂漠〉を題材にしているのだ。それだけなら他の作曲家でもできることだが、ライヒが真にユニークなのは、自分自身の音楽語法、つまりミニマルな音楽語法で核の問題を表現しているという点だ。上に紹介したaにサンドイッチされる形で歌われるbの歌詞、すなわち全曲の中心で歌われる歌詞の意訳を記す。
「テーマ(主題)の繰り返しは、音楽の基本だ。ペースが上がるにつれ、繰り返し、また繰り返す。テーマは難しいが、解決すべき事実ほど難しくはない」
テーマすなわち主題という言葉が、音楽的なテーマと核問題というテーマのダブルミーニングになっているのは明らかだが、驚嘆すべきことに、ライヒはこの歌詞が歌われるbのセクションを、歌詞そのままのミニマルの繰り返しで作曲しているのである! つまり、分割されたコーラスとオーケストラのセクションが5分以上にわたってカノンを演奏し続けるのだが、なにせ、100人以上がカノンの対比法すなわち“カウンターポイント”を演奏するのだから、その極端な〈難しさ〉は、同じライヒの“エレクトリック・カウンターポイント”の比ではない。核問題の解決が〈難しい〉のと同じことだ。それでも、この問題すなわちテーマと〈繰り返し〉向き合っていかなければならない。音楽の表現形式とその内容がこれほどまでに厳密に一致した作品は、僕は他に知らない。
数年前にライヒと直接話す機会があった時、彼は「“砂漠の音楽”は、ヒロシマとナガサキのことを間接的に扱った作品なんだ」と語っていた。であるからこそ、“砂漠の音楽”は特に日本において、原爆と切っても切り離せない夏に演奏され、聴かれるのが最もふさわしい。そして、急いで付け加えておくが、最初に触れた1984年3月17日の“砂漠の音楽”世界初演のわずか5日前に『風の谷のナウシカ』が日本で劇場公開されたという驚くべき事実を想起する時、今回の演奏が他ならぬ久石譲の指揮で実現することの意味が、より切実に感じられるはずだ。今回の“砂漠の音楽”の演奏は、日本におけるミニマル・ミュージックの受容史40年を総括し、ミニマリスト久石の40年を総括し、かつ日本人がこれからも〈繰り返し〉向き合い続けるテーマを改めて問題提起する、またとない機会なのである。

LIVE INFORMATION
久石譲 ミュージック・フューチャー・スペシャル2024
JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE Vol.11
2024年7月25日(木)東京・紀尾井ホール
開場/開演:18:00/19:00
2024年7月26日(金)東京・紀尾井ホール
開場/開演:18:00/19:00
■曲目
フィリップ・グラス:弦楽四重奏曲第5番
フィリップ・グラス/久石譲:2 Pages Recomposed
デヴィッド・ラング:ブレスレス
マックス・リヒター/久石譲:オン・ザ・ネイチャー・オブ・デイライト
久石譲:The Chamber Symphony No.3[世界初演]
■出演
久石譲&ミュージックフューチャーバンド
JOE HISAISHI FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.7
2024年7月31日(水)東京・サントリーホール
開場/開演:18:15/19:00
2024年8月1日(木)東京・サントリーホール
開場/開演:18:15/19:00
■曲目
久石譲:ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド
スティーヴ・ライヒ:砂漠の音楽[日本初演]
※オリジナル編成版(1984年)全曲 日本初演
■出演
久石譲(指揮)
FUTURE ORCHESTRA CLASSICS
東京混声合唱団 エラ・テイラー(ソプラノ)
■チケット発売中
イープラス:https://eplus.jp/
ローチケ:https://l-tike.com/
日テレゼロチケ:https://l-tike.com/ntvzero/
お問い合わせ サンライズプロモーション東京:0570-00-3337(平日:月~金12:00~15:00)
※未就学児のご入場はお断りいたします
※出演者・曲目・曲順に変更がある場合がございます
※車椅子でご来場されるお客様はご購入前にサンライズプロモーション東京までお問い合わせください
https://joehisaishi-concert.com/
企画:ワンダーシティ
主催:日本テレビ/エイベックス・クラシックス
制作:エイベックス・クラシックス
運営:サンライズプロモーション東京