交響組曲“もののけ姫”がおよそ四半世紀の時を経て蘇る!

久石譲, 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』 ユニバーサル(2022)

 久石譲がチェコ・フィルハーモニー管弦楽団を駆って“交響組曲「もののけ姫」”を最初に音盤化したのは、1998年7月8日のこと。それからおよそ四半世紀。同組曲が新たな形でアルバムに刻まれることになった。

 収録された今回の交響組曲は2021年に日本で催された公演からのライヴ音源であり、広めの音場感と十分なホールトーンがまず魅力に映るだろうか。全8章から成るオリジナル版は2016年に一度、森の精霊コダマをめぐる楽曲を加えるなどの改訂が成されているが、ここでは映画の山場を彩る楽曲を追加する一方、反復箇所を大きく減らすなど、全7章形式にスリム化している。

 荘重然とした1998年版に比べると、演奏の速度もやや速めで、劇的な起伏が多いのが特徴。第5章“もののけ姫”、及び映画のエピローグを彩った第7章“アシタカとサン”ではソプラノ歌唱を盛り込むなど、もはや通常の管弦楽作品の様式とは一線を画している。

 現在進行中の久石によるスタジオジブリ作品の交響組曲化は、演奏会用の〈作品〉として完結させることで、映画の素材を野に放置させたままにしないという作家の矜持の表れと考えていい。ただ、こと「もののけ姫」という題材に関していえば、久石のこだわりは特に強い。映画のための作曲に苦闘していた当時、久石は宮崎駿の意志に近づくべく、司馬遼太郎の著作をはじめとする関連書物を読みあさった。それは、つまるところ〈日本とは何か〉を考える作業であった。その巨大な思索に終わりはなく、度重なる楽曲構成の見直しは作家としての自問自答のそれだろう。恐らく「もののけ姫」の交響組曲化に完成の日はない。その作家の格闘を同時代に接するスリルと僥倖を聴き手は誇っていい。

 アルバムには映画「ハウルの動く城」の主題曲ワルツのほか、コロナ禍の2020年に久石が手がけた「アジア圏の映像&水族館内音楽」の組曲も収録。これらにも注文された仕事を〈自身の作品〉として帰結させようとする作曲家の強い意志がみなぎっている。久石譲のプライドはどこまでも熱く、まぶしい。

 


INFORMATION
【収録内容】
『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』
1. The Legend Of Ashitaka アシタカせっ記
2. TA TA RI GAMI タタリ神
3. The Journey Of The West~Kodamas 旅立ち一西ヘー~コダマ達
4. The Demon Power~The Forest Of The Dear God 呪われた力~シシ神の森
5. Mononoke Hime もののけ姫
6. The World Of The Dead~Adagio Of Life & Death 黄泉の世界~生と死のアダージョ
7. Ashitaka And San アシタカとサン
8. Merry-Go-Round 2019《Merry-Go-Round 2019》
9. I Will be the wind《Asian Works 2020》
10. II Yinglian《Asian Works 2020》
11. III Xpark《Asian Works 2020》
12. World Dreams 2021《World Dreams 2021》