本当の家族のようなエネルギー
もちろん、イントロダクションとなる壮麗な“Dreamboat”から4人が聴き手の期待を裏切ることはない。同曲では30/70のジミー・ボウマンがホーンズでクレジットされ、ハープ奏者のメリーナ・ヴァン・レーウェンもその美しさに寄与している。前作ではアルトゥール・ヴェロカイとのコラボが話題になったが、今回は「地元の素晴らしいミュージック・シーンを祝福したいという思いがあった」(ネイ)とのことで、フィーチャーされているのはメルボルンを拠点とするミュージシャンたちだ。メリーナのハープは続く“Telescope”や“Everything’s Beautiful”にも幻想的な優美さを注ぎ込んでいるし、後者では新進フルート奏者のニコディモスも演奏。“Make Friends”でギターを弾くのはサイモンも在籍するプットバックスのトム・マーティンで、“How To Meet Yourself”でフレロなる自作の弦楽器を演奏するテイラー・クロフォードはペリンのクレヴァー・オースティン名義作にも参加していた人だ。そうした仲間の存在もバンドが地元で築いてきた信頼の大きさを推し量ることができる。
一方では広がりを求めた出会いの成果として、ビースティ・ボーイズとの仕事で知られる大物エンジニアのマリオ・カルダートJrが全曲の共同ミックスと一部の録音を手掛けたのは重要だろう。バンドはLAのイーグル・ロックにある彼のMCJスタジオに数週間滞在して共同作業を行ったそうだ。
「僕たちはみんな完璧主義者だから、自分たちでやるよりも、なんとか早くアルバムを完成させるために外部のミキシング・エンジニアと組むことにしたんだ。他の人と一緒に仕事をするのは本当にいい経験だった」(ペリン)。
「彼とは本当にうまくいったよ。仕事を始めてすぐに本当の家族のようなエネルギーが生まれたんだ」(サイモン)。
また、別の意味の試みとして耳に残るのは、過去の名曲のリサイクルである。“Telescope”ではテンプテーションズ“My Girl”の一節がふわりと口ずさまれ、本編ラスト(日本盤にはその後にボートラ収録)では“White Rabbit”のフリーキーでドラッギーなカヴァーが披露される。“My Girl”については言わずもがな、サイケデリックな時代に書かれた“White Rabbit”も映画「プラトーン」から「ストレンジャー・シングス」まで多方面で使われてきたジェファーソン・エアプレインの著名曲だが、もともとは深い意図もなく偶然カヴァーしたものだという。
「ミキシングデスクに白い兎が置いてあったから、“White Rabbit”のリズムを流して私が何となく覚えているフレーズを歌ったというだけのシンプルな始まりだった。人生のおもしろいところ、アーティストのおもしろいところは、後から意味を持ってくるところなんだけど、後から〈私たちはこの曲が作られた頃と同じような状況にいるかもしれない、新しい紛争、新しい思考的拡張、新しい創造の世界の真っ只中にいるんじゃない?〉って気付いた。60年代のサイケデリック・サウンドを再現するのではなく、それを現代の音で表現したらどうなるのかやってみたというわけ」(ネイ)。
そうした産物やエピソードの集合体がひとつの空間に隣り合って『Love Heart Cheat Code』という素晴らしいアルバム世界を構築しているのは、サイモンが言うところの〈本当の家族のようなエネルギー〉を彼らがスタジオで共有し、深い理解と信頼で創造的な調和を生み出してきたからに他ならない。その結果として、遊び心とリラックスした一体感に溢れる素晴らしい作品が完成したのだ。
この秋には本作を引っ提げた8年ぶりの単独来日公演も東京と大阪で開催されるが、4人の関係が生み出す魔法はステージでも確認できることだろう。
ハイエイタス・カイヨーテの作品。
左から、2012年作『Tawk Tomahawk』、2015年作『Choose Your Weapon』(共にFlying Buddha)、2021年作『Mood Valiant』(Brainfeeder)
左から、ネイ・パームの2017年作『Needle Paw』(Masterworks)、クレヴァー・オースティンの2019年作『Pareidolia』(Touching Bass)、メンバーが演奏に参加したバーニー・マッコールの2022年作『Precious Energy』(Extra Celestial Arts)
左から、テンプテーションズの65年作『The Temptations Sing Smokey』(Motown)、ジェファーソン・エアプレインの67年作『Surrealistic Pillow』(RCA)