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ブレインフィーダーに移籍して4人が帰ってきた。多様なインスピレーションから自由なマインドで創造された『Mood Valiant』に宿る美しさの意味とは……?

むしろリラックスできた

 オーストラリアのメルボルンから飛び立ち、アメリカを中心に世界的な成功を収めたハイエイタス・カイヨーテ。今年で結成10年となる彼らは過去に(自主リリースを経て)サラーム・レミ主宰のフライング・ブッダから2枚のアルバムを出していたが、この度、6年ぶりのニュー・アルバム『Mood Valiant』発表にあたってフライング・ロータス主宰のブレインフィーダーと契約した。ハイブリッドな音楽性に加えて熱心なアニメ・ファンであることでも知られる彼らだけに必然だったとも思える同レーベルへの移籍について、キーボード担当のメンバー、サイモン・メイヴィンはこう話す(以下特記したもの以外はサイモンの発言)。

 「ここ数年どことも契約を結ばず宙ぶらりんだったんだけど、新作が出来上がっていくにつれ、メジャーがいいのか、それともインディーなのかと考えはじめた。1年半ほど脳みそがグチャグチャになるくらい悩んでいたけど、そんな時、突然ブレインフィーダーとのミーティングが決まったんだ。もともとネイ(・パーム)がフライング・ロータスと仲が良くてね。サンダーキャットも含めてブレインフィーダーのアーティストとは同じフェスやショウによく出演していたし、僕らと感覚も似ている。海外へ音楽を広げることにも積極的だし、リスペクトするレーベルと一緒に仕事がしたいという夢が叶った」。

HIATUS KAIYOTE 『Mood Valiant』 Brainfeeder/BEAT(2021)

 新作『Mood Valiant』のタイトルは、ネイ・パームの母親が愛車のプリムス・ヴァリアントをその時の気分(mood)で乗っていたことに由来するが、〈valiant〉には〈勇敢〉という本来の意味も持たせ、「泥の中を突っ走ってきた自分たちが試練を経て平穏を手に入れた」ことを謳っているようだ。『Choose Your Weapon』(2015年)から6年、乳ガンを患っていたネイが復帰し、試行錯誤の末に完成した新作をパンデミックの最中に無事発表した現在の心境のようにも思える。

 「気がついたら6年が経っていた。アルバムは曲を書いては休み、書いては休みを何年も繰り返していたけど、サウンドの方向性はいつも通り曲を作るにつれて自然と変化しただけで、以前と違う大きな変化はない。パンデミック(に伴う外出規制)も、もともと僕たちは社交的ではないから、むしろリラックスできたし、メンバーはお互い近くに住んでいるから、その期間でミックスしたり、集中してアルバムを仕上げることができた。ロックダウンがなかったら、もっとダラダラしていたかもしれない」。