いとうせいこう、曽我部恵一、七尾旅人、折坂悠太ら声をあげる日本の音楽家たち
そして、パレスチナとは地理的にも文化的にも距離があるここ日本でも、音楽家たちが次々と曲を発表している(むしろ、英語圏よりも例が多いかもしれない)。
まず、私がこの記事を書こうと決めた理由は、サニーデイ・サービスの曽我部恵一とプロデューサーのJunes Kが2024年7月3日にリリースしたヒップホップソング“Breath”だった。
曽我部はここで〈もうこれ以上殺すな〉と、シンプルで明快であるからこそ力強いメッセージを発している。悲惨な現実を描きつつも、〈止まれあらゆる攻撃と/見て見ぬふりの大勢よ〉と、聴き手に関心を持つようにまっすぐ投げかけている点が重要だろう。ただ傍観する観客であってはならないと、曽我部はオーディエンスの能動性に賭ける。
七尾旅人は昨年12月22日、“Two Palestinians”という曲の歌詞をnoteで発表。ライブでのパフォーマンス映像を今年1月20日に公開した。七尾は、子どもたちが殺されている状況への怒りから、11月よりこの曲を書いていたという。
“Two Palestinians”では、パレスチナの作家ガッサーン・カナファーニーと漫画家ナージー・アル・アリーの2人が難民となり、暗殺されるまでの人生が語られ、最後には〈死ぬためではなくて 何かのために生まれた〉と歌われる。七尾の痛切な声が描きだす物語の重みが、胸を強く打つ。
12月13日に春ねむりは、長文のステートメントと〈イスラエルのパレスチナに対する占領と虐殺に反対し、停戦を求めます〉という直接的なメッセージとともに、短尺の新曲“watermelon (demo)”を発表。シンプルな打ち込みによるロックナンバーで、〈もうたくさんだ〉〈それを止める炎になれ〉と聴き手に呼びかけている。なお、すいか(watermelon)は、パレスチナの連帯や抵抗を象徴するものとして知られる。
GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーと踊ってばかりの国の下津光史は、奈良美智の絵をジャケットにあしらった、平和を願う優しいクリスマスソング“WISH”を12月25日に配信。ガザ地区の子どもたちや家族の支援を目的に、今年1月まで寄付金の募集を並行しておこない、Bandcampの売り上げも寄付している。
折坂悠太は、6月26日にリリースしたニューアルバム『呪文』を、マーヴィン・ゲイの“What’s Going On”や“Mercy Mercy Me (The Ecology)”を彷彿とさせるソウルナンバー“ハチス”という曲で締めた。折坂は、ウクライナとガザの戦争を受け止めきれず、硬直していく自身について心身の健康を考え直し、「自分がどういう行動をすればいいのか、考えていきたいなと思った時期。そんな気分の中で生まれた曲」だとラジオで語っている。
アルバムの後半に置かれたフォークソング“正気”でも〈私は本気です/戦争しないです〉と穏やかに歌われているが、“ハチス”ではポエトリーリーディングのパートで〈全ての子供を守ること〉という言葉が、痛切な思いと親密さ、熱意などが混ざりあった声で繰りかえされる。サビの〈きみのいる世界を「好き」って/ぼくは思っているよ〉とは、私には〈誰も殺すな〉という意味に聞こえる。だからこそ、なんてことのない生活の描写が、特別な意味をもって響く。
ソウル・フラワー・ユニオンは、“川から海まで(FROM THE RIVER TO THE SEA, PALESTINE WILL BE FREE)[Demonstration Ver.]”という曲を6月9日にYouTubeで公開した。アラビックなギターのフレーズがヘビーなこのロックソングは、情景描写的な歌詞が印象に残る。曲名は、パレスチナ解放を求めるスローガンだ(〈from the river to the sea〉とは〈ヨルダン川から地中海まで〉の意味)。
Dry & Heavyのメンバーだったことでも知られるレゲエシンガーのLikkle Maiは、そのソウル・フラワー・ユニオンにバッキングボーカルとして参加している。彼女は“GAZA”という新曲を今年1月6日、東京・下北沢のLIVEHAUSでのライブで披露。5月24日に正式にリリースされたこの曲では、ガザが置かれたシチュエーションを直接的に描きだしている。過去にレイシズムやヘイトへユーモラスにノーを突きつけた“ネット横丁”(2021年)を発表するなど、〈音楽、生活、みな政治〉を掲げる彼女にとっては、当然作らなければいけない曲だったのだろう。
いとうせいこう is the poetは、“POEM FOR GAZA”という新曲のライブ映像を4月13日に公開した。〈生死がわからないガザの友人ヤセル・ハープのため〉と、いとうは英語と日本語からなる反戦ポエトリーを重たいダブにのせて詠んでいる。
日本における動きの一部は〈Musicians from Japan in Solidarity with Palestine〉というTumblrにまとめられているので、そちらもあわせてチェックしてほしい。