a子の1stフルアルバム『GENE』が完成した。古今東西のあらゆる音楽だけでなく、映画、マンガ、小説、SNS……さまざまなクリエイションをリファレンスにした全13曲が収められている。

多くのメディアから賞賛され、次世代ダークポップアイコンと呼ばれるa子だが、約半年前に“惑星”でメジャーデビューして以降、多くの人に聴いてもらうためにキャッチーであることを強く意識し始めたという。アルバムに収録された5曲の新曲からは特にa子だからこその新たなポップスを生み出そうという意志を感じる。

a子率いるクリエイティブチーム、londogによって制作されたジャケットやミュージックビデオといったアートワーク、そして歌詞の隅々からa子を形成する遺伝子=GENEが感じられる意欲作について聞いた。

※この記事は2024年7月25日(木)に発行予定の「bounce vol.488」に掲載される記事の拡大版です

a子 『GENE』 IRORI/ポニーキャニオン(2024)

 

自分の作品が遺伝子として残ったら

──アルバムタイトルには遺伝子を意味する『GENE』というワードが付けられていますが、どういう思いがあったのでしょう?

「バンドメンバーや一緒に曲を作っている中村(エイジ)さんや齊藤真純と、〈自分はいろいろな作品をリファレンスにして曲を作っているけど、それって遺伝みたいなことだよね。同じように自分の曲や歌詞がどんどん遺伝していったら嬉しいよね。何かを感じ取ってくれた人たちが新しいものを作ったり、やったり、生活の一部になったり〉という話をしていたところから付けたタイトルです。

真純はすごく物知りなんですが、〈ミーム〉という言葉を考えたリチャード・ドーキンスという学者が同じような考え方を提示していることを教えてくれて。ジャケットの背景には英語の文章が書いてあるんですが、それはドーキンスの提唱していることを踏まえて作った〈自分のアイデンティティーは過去の音楽の偉大な歴史から遺伝されていて、自分の作品もその大きな流れの中で遺伝子として残ったらいい。ミームによる文化的進化の仮説は遺伝子による生物学的な進化の理論と類似した概念〉という意味合いの英文を切り取ったものになっています」

──その英文は花に載せられていますが、それも遺伝と関連しているのでしょうか?

「あるように見えるけど、そこはあまり深く考えなかったです(笑)。花が昔から好きなのと、スティーヴ・レイシーのアルバム『Gemini Rights』(2022年)のジャケットが好きで、顔がドーンと載っているジャケットがいいなと思ってこういう方向性にしました」

──メジャーデビューシングルの“惑星”についてのインタビューで「アルバムの曲はほぼサビから作った」とおっしゃっていましたが、アルバムに収録されている新曲5曲はその作り方だったのでしょうか?

「大体そうですね。トラックから作った曲もあるんですが、メジャーに入ってから〈いろいろな人に聴いてもらうためには、やっぱりサビのメロディがめっちゃ大事じゃない?〉ということを意識し始めて、そこで中村さんと〈サビのメロディラインが耳に引っかかるものにしよう〉という話になりました。

ミュージシャンだけでなく、例えばlondogのスタイリストのYuki Yoshidaとかいろいろな立場の友達に曲を送って聴いてもらって、外部の方からもサビのメロディが〈いい〉と言ってもらえるところまで持っていってから形にするようになったんです。とはいえ、自分が〈いい〉って思ったら、その段階でOKにしちゃった曲も何曲かあるんですけど」