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ドナートがカエターノやガル・コスタ、マルコス・ヴァーリらに書いた珠玉の名曲

ほか、原曲や過去の録音を交えながら紹介していこう。

冒頭の“A Rã”は『Quem É Quem』の収録曲で、ファンキーで軽快な原曲に対して、ヒカルドら3人の演奏は実に自由で伸びやか。“Açafrão”はドナートとジャルズ・マカレーの近作『Síntese Do Lance』(2021年)でも聴けるボサノバだが、ヒカルドたちはボサノバのリズムを見事に〈解体〉している。“Naquela Estação”は、アドリアーナ・カルカニョットのデビュー作『Enguiço』(1990年)にも収められている、ドナートとカエターノ・ヴェローゾ、ホナルド・バストスが作曲したMPB。

JOÃO DONATO, JARDS MACALÉ 『Síntese Do Lance』 Rocinante/THINK!(2021)

ADRIANA CALCANHOTTO 『Enguiço』 CBS/Columbia(1990)

“Brisa Do Mar”は、オス・カリオカスや小野リサ、シコ・ブアルキによる演奏も知られるボサノバ。メドレーで続く“Surpresa”は、カエターノ・ヴェローゾの1982年作『Cores, Nomes』に収められているほか、ジェシー・ハリスとヴィニシウス・ジュニオールの共演作『Surpresa』(2021年)ではメロディ・ガルドーが歌声を添えた曲。

CAETANO VELOSO 『Cores, Nomes』 Universal(1982)

JESSE HARRIS, VINICIUS CANTUARIA 『Surpresa』 Sunnyside Communications(2021)

“Verbos Do Amor”はガル・コスタの1982年作『Minha Voz』にも収められており、当時のブラジル音楽らしい浮遊感を漂わせたMPB/ボサノバだった。“Naturalmente”は、AORファンに知られるマルコス・ヴァーリの名盤『Marcos Valle』(1983年)におけるメロウでソウルフルなブラジリアンフュージョンだが、ヒカルドたちの再解釈は波や風のような演奏で実に新鮮だ。“Cadê Você”は、シコ・ブアルキの1987年作『Francisco』(Lampの染谷大陽もお気に入りな名盤)ではストリングスが優雅なポップソングだったが、ヒカルドたちは引き算の美学によって曲の根幹にある美点を引き出している。

GAL COSTA 『Minha Voz』 Universal(1982)

MARCOS VALLE 『Marcos Valle』 Som Livre(1983)

CHICO BUARQUE 『Francisco』 BMG Brasil(1987)

“Já Que Você Deu Motivo”は唯一の未発表曲で、ドナートの生前にイヴォーネ・ベレンを通じてレイラの手に渡ったそうだ。「この曲はドナートとジョアン・ジルベルト、リジアス・エニオとの共作で、これまでインストゥルメンタルバージョンしか録音されていなかった。ドナートがイヴォーとの電話中に〈これを送ったら、レイラは大喜びするな〉と言っている声が聞こえたが、まさにその通りになった」とのこと。

“Nua Ideia”は、ガル・コスタの1990年作『Plural』でグルーヴィなボサノバとして演奏されているが、ジャキスのヘビーなチェロが印象的なヒカルドたちの演奏は曲の新たな面を見せている。最後の“Flor De Maracujá”は、ガル・コスタのトロピカリア時代の1974年作『Cantar』でファンクロック的な演奏がされていたが、ヒカルドたちはその軽快なシンコペーションをピアノ、チェロ、歌で見事に翻案した。

GAL COSTA 『Plural』 BMG Brasil(1990)

GAL COSTA 『Cantar』 Philips(1974)

『Donato』は、ブラジル音楽の愛好家だけでなく、室内楽などのクラシックやジャズのファンにも届いてほしい珠玉のアルバムだ。原曲やほかのバージョンとの聴き比べも非常に楽しい。ドナートの膨大な作品群やパウラの『Água』とあわせて聴いてみることをおすすめしたい。そして、なにより、天才ドナートがブラジル音楽界に遺したスタンダードとレガシーにここから触れてみてほしい。

 


RELEASE INFORMATION

LEILA PINHEIRO, RICARDO BACELAR 『Donato』 Jasmin Music(2024)

リリース日:2024年9月27日(金)
配信リンク:https://ffm.to/jasmin_donato

TRACKLIST
1. A Rã(ジョアン・ドナート/カエターノ・ヴェローゾ)
レイラ・ピニェイロ – ボーカル
ヒカルド・バセラール – ピアノ
ジャキス・モレレンバウム – チェロ

2. Lugar Comum(ジョアン・ドナート/ジルベルト・ジル)
レイラ・ピニェイロ – ボーカル
ヒカルド・バセラール – ピアノ

3. Açafrão(ジョアン・ドナート/マルロン・セッチ/シルヴィオ・フラーガ)
レイラ・ピニェイロ – ボーカル
ヒカルド・バセラール – ピアノ
ジャキス・モレレンバウム – チェロ

4. Naquela Estação(ジョアン・ドナート/カエターノ・ヴェローゾ/ホナウド・バストス)
レイラ・ピニェイロ – ボーカル
ヒカルド・バセラール – ピアノ
ジャキス・モレレンバウム – チェロ

5. Brisa Do Mar - Surpresa(ジョアン・ドナート/アベル・シルヴァ、ジョアン・ドナート/カエターノ・ヴェローゾ)
レイラ・ピニェイロ – ボーカル
ヒカルド・バセラール – ピアノ
ジャキス・モレレンバウム – チェロ

6. Verbos Do Amor(ジョアン・ドナート/アベル・シルヴァ)
レイラ・ピニェイロ – ボーカル/ピアノ
ヒカルド・バセラール – ピアノ

7. Naturalmente(ジョアン・ドナート/カエターノ・ヴェローゾ)
レイラ・ピニェイロ – ボーカル
ヒカルド・バセラール – ピアノ/ボーカル
ジャキス・モレレンバウム – チェロ

8. Cadê Você(ジョアン・ドナート/シコ・ブアルケ)
レイラ・ピニェイロ – ボーカル
ヒカルド・バセラール – ピアノ

9. Contas De Vidro(ジョアン・ドナート/ジョアン・ジルベルト/リジアス・エニオ)
レイラ・ピニェイロ – ボーカル/ピアノ
ヒカルド・バセラール – ボーカル
ジャキス・モレレンバウム – チェロ

10. Já Que Você Deu Motivo(ジョアン・ドナート/ホナウド・バストス)
レイラ・ピニェイロ – ボーカル
ヒカルド・バセラール – ピアノ
ジャキス・モレレンバウム – チェロ

11. Nua Ideia(ジョアン・ドナート/カエターノ・ヴェローゾ)
レイラ・ピニェイロ – ボーカル
ヒカルド・バセラール – ピアノ
ジャキス・モレレンバウム – チェロ

12. Flor De Maracujá(ジョアン・ドナート/リジアス・エニオ)
レイラ・ピニェイロ – ボーカル
ヒカルド・バセラール – ピアノ
ジャキス・モレレンバウム – チェロ

カバー:MZK
ジャスミン・スタジオにて録音
レコーディング:メウク
ミキシング:ベト・ネーヴェス(マンドゥーリ・スタジオ)
マスタリング:カルロス・フレイタス
プロデュース:レイラ・ピニェイロ&ヒカルド・バセラール

 


PROFILE: JOÃO DONATO
ジョアン・ドナート(ジョアン・ドナート・ジ・オリヴェイラ・ネト)はアクレ州生まれの作曲家、ミュージシャン、ピアニスト、アコーディオン奏者、歌手で2023年7月17日に他界。ボサノバムーブメントに参加し、米国ではラテンジャズを広めた。2023年にはアルバム『Serotonina』でラテングラミー賞を受賞するなど世界に向けたブラジル音楽の発信に多大な貢献をした。

PROFILE: RICARDO BACELAR
ヒカルド・バセラールはピアニスト、作曲家、音楽プロデューサーで、自身のレーベルであるジャスミンミュージックを立ち上げ、現在ブラジル国内で最も重要なレコーディングスタジオのオーナーでもある。リオデジャネイロの人気グループ、ハノイ・ハノイのメンバーとして長年活躍。ソロアーティストとしてはベルキオール、イヴァン・リンス、ジルベルト・ジル、ファグネル、ホベルト・メネスカル、フラヴィオ・ヴェントゥリーニ、エヂナルド、アメリーニャといった大物ミュージシャンたちとレコーディングしている。また米国のジャズ専門ラジオ局で最も頻繁にオンエアされたアーティストの一人に選ばれたことが二度ある。ヨーロッパや日本でもツアーを行っており、2024年には東京・BLUE NOTE PLACE公演を含む8公演の日本ツアーを開催した。

PROFILE: LEILA PINHEIRO
MPBやサンバ、ボサノバの歌手であり、ピアニスト、作曲家としても活躍するレイラ・ピニェイロは44年のキャリアを持つ。ホベルト・メネスカルがプロデュースしたアルバム『Bênção Bossa Nova』の記録的ヒットでボサノバアーティストとしての名声を確立。これまでに多くの賞を獲得しており、来日公演も行っている。アントニオ・カルロス・ジョビン、ジョアン・ドナート、イヴァン・リンスらブラジル音楽を代表するアーティストとも共演。代表曲はジョビン作曲の“Espelho das Águas”、フラヴィオ・ヴェントゥリーニとムリロ・アントゥーニス作曲の“Besame”など。ピアノは10歳から演奏している。