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眩いほどの喜びと希望

 本作は、グリープの新たな表情を映すサウンドが味わえる作品でありながら、UKロック史に足跡を残す偉大な先達の影もチラつく。特にポスト・パンク~ニューウェイヴ時代のイギリスからは、中南米の音楽やジャズの要素を掛け合わせたユニークなインディー・ロックが数多く生まれた。ヤング・マーブル・ジャイアンツのアリソン・スタットンをフロントに擁したウィークエンドの『La Varieté』(82年)、78年にマンチェスターで結成されたディスロケーション・ダンスの『Midnight Shift』(83年)など、挙げていけばキリがない。もちろん、本稿や別項のディスクガイドで挙げられている作品と本作のサウンドは、同じわけではない。とはいえ、それぞれの作品がどのように中南米音楽やジャズを取り入れ、消化しているのかを比較するという楽しみ方ができるのは確かだろう。膨大な数の音楽が生成されている現在において、素晴らしい遺産を振り返る機会は少なくなりがちだ。その遺産に多くの新規リスナーを誘う導線になりうるのも、本作のおもしろさと言っていい。

 グリープいわく、本作の歌詞は絶望がテーマだそうだ。〈すべてをコントロールできている〉と自分をごまかしながら、実際はコントロールできていない人物ばかりが登場するという。だが、そのような歌詞とは裏腹に、サウンドはとてもエネルギッシュで瑞々しい。演奏はキレキレで、ダレる瞬間がまったくない。終始ハイとローのテンションを行き来する楽しい混沌が繰り広げられている。〈こうでなければいけない〉という思考やパターンから見事に解き放たれた、風通しの良い曲が並ぶ。『The New Sound』は、思い通り音楽をやれているグリープの喜びと希望が眩しいアルバムだ。この輝きは、ブラック・ミディの活動休止という哀しみを癒してくれる。

ブラック・ミディの作品を紹介。
左から、2019年作『Schlagenheim』、2021年作『Cavalcade』、2022年作『Hellfire』(すべてRough Trade)、ライヴ盤『Live Fire』(Rough Trade/BEAT)