サニーデイ・サービスやかせきさいだぁ、はっぴいえんどチルドレンが現れた90年代
バブル崩壊後の1990年代半ばになると、1970年代のはっぴいえんどやアングラフォークなどの影響を受けたドメスティックな作詞を特徴とするアーティストたちが登場してきました。その筆頭ともいえるのがサニーデイ・サービスです。
メジャーファーストアルバム『若者たち』(1995年)のブックレットには(前回紹介した)『はっぴいえんど』のインナーを意識したであろうスペシャルサンクス欄があるのですが、それが永島慎二やジョージ秋山、滝田ゆうなど全て漫画家というのが面白いところ。サニーデイの歌詞は文学的であってもじつは直截的な引用はあまりないのですが、2枚目のアルバム『東京』(1996年)の最後を飾る“コーヒーと恋愛”は一つのトピックだといえます。
当時はほぼ忘れ去られていた大衆文学作家、獅子文六の同名小説にインスパイアされて作られた曲ですが、2013年に同書がちくま文庫で40数年ぶりの復刊を果たした際に解説を担当したのがサニーデイの曽我部恵一でした。しかも装丁に使われているのは『東京』のジャケと全く同じ桜風景の写真。「コーヒーと恋愛」を手始めに獅子文六の著書は相次いで復刊されて再ブームを巻き起こすのですが、そのきっかけがサニーデイにあったことは見過ごせません。

サニーデイ以上に、というより1990年代で最も文学嗜好の強いアーティストはラッパーのかせきさいだぁでしょう。メジャーデビューアルバム『かせきさいだぁ』(1996年)のリリックには松本隆の影響が大きいですが、萩原朔太郎や江戸川乱歩、宮沢賢治、遠藤周作などの作品からの引用も散見されます。とくに1990年代屈指のサマーアンセム“じゃっ夏なんで”の詞には〈梶井基次郎の檸檬〉というパワーワードが登場。
この曲によって夭折の天才作家と珠玉の短編「檸檬」に興味を持った人も多いはずですが、さらに極めつきは“相合傘”。これまた梶井基次郎の「城のある町にて」の一節〈私はおまえにこんなものをやろうと思う/1つはゼリーだ(以下略)〉をまるまるリリックに取り入れて〈小説のサンプリング〉をしたことが衝撃でした。ヒップホップに文学的要素を加えたという意味で、1990年代のはっぴいえんどともいえる存在だと思います。


