熟成を重ねた名コンビによる、鮮やかで、しなやかで、迫力に満ちた名演奏!
“英雄の生涯”冒頭、重低音による変ホ音の豪快な鳴りっぷり! シュトラウスがこの冒頭音のために補強したコントラバスとコントラファゴットが、バリバリと地響きを上げ凄まじい迫力を生んでいるし、最優秀の録音がそれを捉え切っている。
大野和士と都響は初共演から40年、150回ものコンサートを重ね、大野の音楽を100パーセント体現できる名コンビとなった。都響の機能美、多彩な音色、幅広い表現力が存分に発揮され、壮麗かつダイナミックな“英雄の生涯”の魅力を鮮やかに、しなやかに、素晴らしい迫力により堪能させてくれる。
第1曲“英雄”から、スケールの大きな澄み切った音空間、クライマックスに向け高揚を続けるスリル、頂点の上にさらに頂点を描く表現のゆとりに圧倒される。第4曲“英雄の戦場”、第5曲“英雄の業績”では様々な動機が多様な楽器で重なり合う複音楽的な管弦楽法の妙を圧巻の音楽的絶景として表出しており、唖然として聴き惚れるばかりである。
シュトラウスがソロ・ヴァイオリンを充てた“英雄の伴侶”は、コンサートマスターの矢部達哉が担当。彼のソロは滴るような音色と自在な節回しをもち、紆余曲折を経ながら英雄と結ばれてゆくさまを表情豊かに演じている。大野は〈頂点を極めたのち、下り坂をゆったりとした足取りで人生の終焉に向かっていく際の音楽の深み〉(第6曲“英雄の隠遁と完成”)への注目をライナーノーツで促しているが、ここで年老いた“伴侶”が再びソロ・ヴァイオリンで現れる部分は涙が出るほど感動的だ。指揮者、ソロ、オーケストラの三者が音楽に内在する諦観を入念かつ共感にみちた表現で演じているからだろう。
カップリングはロシアのウクライナ侵攻をうけて急遽プログラムに追加された“ウクライナへの祈り”。若き日にクロアチア紛争のさなかザグレブ・フィルの音楽監督を務め、戦時下の〈音楽の力〉を知る大野ならではの選曲で、作品、演奏とも静謐な美しさに満ちている。