未来に向けた共生の在り方を提示
渋谷慶一郎の新作オペラ「Super Angels」が8月開催!

 昨年7月6日に音楽家の渋谷慶一郎がツイッター上で公開した動画が大きな反響を呼んだ。渋谷による即興的なピアノ演奏に合わせて、アンドロイド・オルタ3がリアルタイムに反応して歌声を生成するというリハーサル映像である。動画としては他にも、渋谷が弾くエリック・サティ“ジムノペディ”にオルタ3がその場で装飾的に歌を披露するという映像もあった。もちろん、AI(人工知能)を用いた即興演奏という点だけ取り出すのであれば、例えばトロンボーン奏者/作曲家のジョージ・ルイスが80年代後半に開発したヴォイジャーをはじめ、先例はある。だがまるで人間のような身振りと表情を見せ、しかし同時に機械であることを剥き出しにしたアンドロイドが、人間と機械の間をいくようなヴォコーダー・ヴォイスをパフォーマティヴに表現することの不気味さは、オルタ3が先鞭をつけたと言っていいのではないか。

 コロナ禍で約1年間延期となっていた新作オペラ「Super Angels スーパーエンジェル」が、2021年8月21日(土)から22日(日)にかけて東京・新国立劇場でようやく日の目をみることとなった。物語は全知全能のAIが管理する世界で人間とアンドロイドの交流を描くSF作品で、台本は作家の島田雅彦が担当。総合プロデュースと指揮を新国立劇場・オペラ部門芸術監督の大野和士が手がけ、キャストにはオペラ歌手の他にアンドロイドのオルタ3、さらに世田谷ジュニア合唱団、視覚障害や聴覚障害のある子供たちが参加するホワイトハンドコーラスNIPPONも出演し、〈子供たちとアンドロイドが創る新しいオペラ〉が目指されている。作曲は渋谷慶一郎だ。

 渋谷はこれまで、ボーカロイド・初音ミクと電子音響を用いた人間不在のオペラ「THE END」(2012年)や、アンドロイド・オルタ2が指揮と歌唱をするオペラ「Scary Beauty」(2018年)など、最先端のテクノロジーを駆使して人間/機械あるいは生/死の境界をあらためて問う作品を発表してきている。もちろん、テクノロジカルな側面に批評的に切り込んだ作品は2002年にレーベルATAKを設立して以降、常に取り組んできた渋谷の音楽におけるテーマの一つでもあり、その意味では複数の専門家と共同制作したアンドロイドによるオペラもこれまでの作曲活動の延長線上に位置していると言える。歌を中心に新たにヴァージョン・アップしたオルタ3のパフォーマンスは大きな見所となるに違いない。ただし、より重要なことはおそらく単にそうした見世物としての新奇なテクノロジーではなく、人間と機械あるいは大人から子供まで様々な人々が協働し、未来に向けた共生の在り方を作品として提示するということの方にあるだろう。オルタ3が投げかける問いも――単にロマン主義的なテーマとしてではなく――極めて具体的な生/死を見つめ直す機会となるはずだ。

 


EVENT INFORMATION
新制作 創作委嘱作品・世界初演
子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ
『Super Angels スーパーエンジェル』

2021年8月21日(土)東京・初台 新国立劇場 オペラパレス
開演:14:00

2021年8月22日(日)東京・初台 新国立劇場 オペラパレス
開演:14:00

総合プロデュース・指揮:大野和士
台本:島田雅彦
作曲:渋谷慶一郎
総合舞台美術:針生康(装置・衣裳・照明・映像監督)
ゴーレム3:オルタ3(Supported by mixi, Inc.)
アキラ:藤木大地
エリカ:三宅理恵
世田谷ジュニア合唱団
ホワイトハンドコーラスNIPPON ほか

■料金(全席指定)
こども(4歳~小学生):3,300円
おとな(中学生以上):6,600円

一般前売開始:2021年7月10日(土)10:00
お問い合わせ(ボックスオフィス):03-5352-9999

https://www.nntt.jac.go.jp/opera/