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次元の異なるゼロ地点

 しかも両者には、共通項も多い。チェスターは独特のトーンと広いレンジ、現代的な感触と普遍的な響きを併せ持った歌い手だった。エミリーの資質にもそれに重なるところがあり、前述の“The Emptiness Machine”や“Heavy Is The Crown”“Over Each Other”といった先行リリース曲での歌唱からもそれは窺えたが、『From Zero』の中には、彼女の獰猛なシャウトが曲の印象を決定付けている楽曲まである。そうした表現者としての多様さも含め、これほどの逸材がこれまでシーンの表舞台で評価されずにきたのが信じられないほどだ。

 エミリーは9月下旬に行なわれたオンライン記者会見の席上で、加入後の変化について「自分でもまだどういうことなのか、完全には飲み込めていない」と素直な心境を吐露している。彼女がこうしてリンキン・パークで開花することになったのは、彼女自身がそれ以前の経験を糧としながら、この場で自らをリセットし、まさしくゼロ地点からのスタートを切ったからこそだろう。そしてバンド自体がこうして見事なアップデートを遂げたのも、過去を消去するのではなく、すべてを完全に咀嚼・消化したうえで、次元の異なるゼロ地点へのリセットを果たしたからこそだと思えてならない。

 改めて付け加えておくならば、今作のリリースに至るまでの流れも、まさにゼロ地点から始まっている。8月下旬のある日、リンキン・パークのオフィシャルサイトでは突然の謎めいたカウントダウンがスタート。それがゼロに達した次の瞬間には、ごく当たり前のように数字がプラス方向に動き始めた。あれが彼らにとっての新たな時間軸の始まりだったのだろう。そしてバンドは9月5日にファンクラブ会員のみを対象とする限定イベントを行ない、新布陣についての情報と共に“The Emptiness Machine”を公開し、『From Zero』のリリースを告知。さらにその発売に先がけて世界の4つの異なった大陸にある都市を廻るアリーナ・ツアーを行なうことを発表し、すでにそれを実施してきた。新たなゼロ地点から歩み始めたリンキン・パークは、すでに猛スピードで新たな歴史を綴りはじめているのである。 *増田勇一

デッド・サラの2021年作『Ain't It Tragic』(Warner)

コリン・ブリテンの参加作を一部紹介。
左から、パパ・ローチの2022年作『Ego Trip』(New Noize)、ONE OK ROCKの2022年作『Luxury Disease』(ワーナー)、ストーリー・オブ・ザ・イヤーの2023年作『Tear Me To Pieces』(SharpTone)、マイク・シノダ&エミリー・アームストロングの楽曲を収めた2024年のサントラ『Arcane League Of Legends: Season 2』(Riot Games)