
自分の心に従って進んでいくしかない
――そうしたところも含めて現在のモードが表れているアルバムだと思いますが、そのなかでもやはり“バタフライ”のインパクトは突出している。シンセウェイブの影響下で新しいビートミュージックを創造しているジョーンのサウンドで歌うことで、次の段階へ踏み出したのを感じました。シティポップ的なサウンドから外れた曲をやってみたいという気持ちがあったんですか?
「違うことをやりたいというより、好きな音楽としてジョーンを聴いていて、それが自分の音楽性と違うとも思っていなかったんですよ。で、実際に会って、お任せで作ってもらったら、ああいうデモが返ってきた。めちゃめちゃかっこよかったんですけど、歌ったことのないビートだったし、これを日本語に変えて果たして歌えるだろうかと。〈できたらかっこいいけど、本当にできるのか私?!〉みたいな気持ちで取り組み始めたんです」
――経緯を詳しく聞かせてください。まずはジョーンの音楽が好きだったから会いに行ったわけですね。
「彼らの音楽を聴いていて、MVも可愛いと思っていたんです。2023年9月に来日公演があったので、それを観に行って、終演後に挨拶させていただきました。そこで私のアルバムを渡して、〈もし気に入ってくれたら一緒に曲を作りたい〉と伝えたら、一緒にやることが決まりまして」
――どのように進めていったんですか?
「まず私が好きなジョーンの曲を3曲くらい伝えたんです。今までのXinUの曲と親和性のありそうなチルっぽい曲を選んだんですけど、それとはまったく違うデモが送られてきた。え?ってなったけど、めちゃくちゃかっこよかったので盛り上がって。デモの段階でメロディもあの通りだったし、仮の言葉もはめられていて、完成形に近いものでした。だから英語のノリを活かすように日本語詞をつけていったんです」
――“バタフライ“というワードや、未来を知る蝶が行方を告げに来るといった設定は、どんなふうに生まれたんですか?
「“バタフライ“というワードはデモに入っていて、初めから〈バラ・バラ・バラ〉 って歌われていたんです。そこはバッチリとハマっていたので変えたくなかった。じゃあ、お題をもらったと思って、今の気持ちを書いてみようと。
蝶は幸運を引き寄せるとか、人生をいい方向に導くと言われているじゃないですか。私は人生の岐路に立ったとき、誰かに進む方向を教えてほしいって思っちゃうほうで、それこそ蝶が導いてくれたらいいのにと思うこともあったんですけど、でも最後に決めるのは結局自分なんですよね。自分の心に従って進んでいく以外ない。そう考えて、それをシンプルな言葉で書きました」
――未来のことはわからないけど、わからないまま飛んでいくしかない。それって今の社会に対する気分を反映しているところもありそうですね。この先世界がどこに向かうのかわからない状況のなか、前を向いて飛んでいくのではなく、蝶のようにフワフワと舞いたい。〈わからないまま飛んでいく〉というフレーズは、すごく2024年的な気分だなと感じます。
「そうかも。ちょっと迷いつつ、みたいな。MVも、蝶に目隠しをされて未来が見えない……けど、蝶にすがりたい思いとか、誰かに助けてほしい気持ちを表現しつつ、結局自分の目をふさいでいるのは自分なんじゃないかという含みも持たせている。そのあたりは日本のスタジオで撮ったんですけど、次の場面は台湾で撮影したもので」
――台湾のビルとその色合いが、荒廃した近未来のようにも見えますね。
「怪しいビルがあったりして、イメージに合っていました。で、最後は私が空港の滑走路を歩いていく。自分の足で歩き出すというストーリーになっています」
――サウンドにもMVにも、新しいXinUを焼きつけている。
「大きな挑戦だったけど、本当にやってよかったと思います。かっこよくてシンプルな日本語詞もつけられたし、あのビートの上で低い声で歌うこともできたし。後半でラップっぽく、ささやくように歌うのも挑戦でした」
――アルバムタイトルは、どの段階で決めたんですか?
「これまでは記号的なタイトルだったけど、今回は何か言葉をタイトルにしたいと話していて。アルバムの方向性が見えてきた9月に決めた覚えがあります。何か言葉をつけたいけど、具体的すぎるものより記号的なほうが面白いし、イメージを限定しない。それで〈AOR〉っていいねという話になって。
AORはアダルトオリエンテッドロックの略だけど、私には激しいロックより緩やかに揺れるほうが合っている。それをイメージさせる言葉がないかなってところから、ロックをロマンスに変えてみたら面白いかもという話になり。それなら冬にもピッタリだしってことで、このタイトルにしました」