アカペラで歌うささやかなクリスマス
――では、各曲の話を。オープナーは“ロマンス”。今の季節にぴったりの曲ですね。
「王道のクリスマスソングではないけど、その季節を意識したものをアカペラで作りたいというアイデアは初めからありました」
――アカペラはXinUさんのルーツだったりしますもんね。
「高校生の頃に流行っていたテレビのアカペラ番組の影響で、大学に入ってアカペラをやるようになったんです。デビュー以前、最も打ち込んだ音楽がアカペラでした」
――曲作りの段階から、アカペラをやろうと考えていたんですか?
「最初はアルバムのイントロとして30秒くらいのアカペラがあったら素敵なんじゃないかと話していたんです。でも作り始めたら2倍3倍に膨らんでいって、アカペラだけのセクションまで作りだしちゃって。2~3時間で録音を終わらせるはずが、音の積み重ねとかに凝っちゃって、結局4日かかりました(笑)。1パートを3声で録るから、4つラインがあったら3×4=12で12トラックになって……。でも楽しくてしょうがなかった」
――作曲はXinUさんと松下さんと武藤さん。
「今回は何曲か武藤くんに作曲から入ってもらいました。アカペラの響きにあたたかみと多幸感をもたせたいと話して、一緒にコード進行も考えてもらって。で、メロディを決めて、歌詞を書いてという順番です」
――歌詞はさらっと書けたんですか?
「書き出すまで時間がかかりましたけど、書き出したら一晩で書けました。日々いろんなことがあるけど、クリスマスくらいはもやもやとかいざこざを忘れてほしいという思いを込めて」
――クリスマスに思い入れはあります?
「実はあんまりない(笑)。イルミネーションを見ると電気代がもったいないとか思っちゃうタイプで。でも、ささやかにクリスマスをお祝いしましょうという“Have Yourself A Merry Little Christmas”が好きなので、ひとりか大切な誰かとささやかに過ごすクリスマスはいいなって思う。ささやかなほうが好きです」

Mori Zentaroによるハウス × ポップの新境地
――2曲目はEP収録の“触れる唇”で、冬曲から一気に夏に飛ぶっていう。思い切った並びですね。
「あえてそうしました。ここから本格的に『AOR』が始まるよって印象づけるために」
――“バタフライ”に続いて、4曲目は“Kiss Kiss Kiss”。この曲はハウスミュージックをポップに持ち込んだ曲で、これも新境地。プロデュースはMori Zentaroさんで、作曲にも関与しています。
「念願叶って。以前から〈この曲いいな〉と思うと、手掛けているのがMori Zentaroさんってことが多かったんです。それでお声がけしたら快諾してくださって。初めて直接会ったのが下北沢ADRIFTでライブをやった日で、Zentaroさんが大阪から東京に引っ越した日だったんです。Zentaroさん、ライブを観るために大阪から自転車で来てくれて」
――大阪から自転車で?!
「ヘトヘトになりながら〈チャリで来ました~〉って(笑)。だから、超面白い人だなっていうのが第一印象。それからスタジオにお邪魔してメロディを整理したり、ミックスも一緒にやってくれたり、密にコミュニケーションを取りながら作っていったんです。ガチガチのハウスだったら私に歌えたかわからないけど、ハウスとポップの加減が絶妙で、スッと新しいことに挑戦できた気がします」
――〈このままKiss Kiss Kiss やめないで〉と歌っているけど、官能的というよりキスをきっかけに動きだすというポジティブな歌になっているのがいい。
「キスについて調べたんですけど、ギリシャ神話のピグマリオン王の話が興味深くて。ピグマリオンは理想の女性を彫刻して、その像を溺愛するようになってからずっと苦しんで、最後にキスをしたら、それを見ていた神様が〈この男の願いを叶えてあげよう〉と、像を人間にするお話なんですけど。それが面白かったので、歌詞の最後のほうに〈まるでピグマリオンみたいに〉って入れて、〈今動きだすの〉と繋げたんです」