〈BLUE NOTE SA-CD HYBRID SELECTION〉として、2024年9月の第1弾に始まり、第2弾第3弾、そして第4弾まで20枚がリリースされる。言わずと知れたジャズの名門ブルーノートの定番・名盤の数々がSACD Hybrid盤でよみがえり、〈本物のジャズ〉の音が理想的な高音質で堪能できる企画だ。

今回はこれを記念してエンジニア/音楽家のオノセイゲンに、レコード・CD・SACDといった記録媒体の違いについて、レコーディングやマスタリングについて、そしてルディ・ヴァン・ゲルダーの仕事について話を聞いた。 *Mikiki編集部


 

ブルーノートの名盤をSACDで聴けるなんて夢のよう

――セイゲンさんと言えば、オルタナ系アーティストとのしごとが多いので、ブルーノートのファンだと聞いて、ちょっと意外でした。

「ぼくのしごとは、ジョン・ゾーンやアート・リンゼイ、ビル・フリゼール、清水靖晃、渡辺香津美のようなアーティストとのコラボレーションが目立っているかもしれません。でも、1980年代はオスカー・ピーターソンやマンハッタン・トランスファーや渡辺貞夫も録音しています。貞夫さんの1985年のライブ録音『パーカーズ・ムード(ライブ・アット・ブラバス・クラブ’85)』は今聴いても大好きなストレートなハードバップのレコードです。『エリス』の録音で、ぼくは初めてブラジルにも連れて行ってもらいました。ジャズのライブ録音はエンジニアとしての原点です。

今回タワーレコードがブルーノートの選りすぐりの名盤ばかりをSACD Hybridでリリースすると知って、時代をリードするタワーレコードもSACDの復権を進めている!と、ぼくの周りでもジャズファン、オーディオマニアが盛り上がってます!」

――ブルーノートSACDの音質に最も大きく寄与したファクターは何でしょうか。

「それは言うまでもありませんが、ブルーノートには〈素晴らしい録音がそろっている〉ことに尽きます! アルフレッド・ライオンというプロデューサーのおかげで、伝説的なジャズミュージシャンが王道を行く演奏を次々と産み出していました。そして、ルディ・ヴァン・ゲルダーがその演奏を一発録音でアナログテープに定着させました。1:いい楽曲、2:奇跡の演奏、3:素晴らしい録音と3拍子そろってこその名盤なのです。

今回のSACDは、〈USオリジナルマスターテープより、トランスファーしたDSDを基にした2024年最新リマスタリング。2017年のシングルレイヤーSACDは取り寄せたDSD素材から何も調整しない、所謂フラットトランスファーの状態でリリースしています。今回はアナログ機材やケーブルを使って微調整やニュアンス付けをしました。但し、上述の通り素材が優れているため過激なリマスターは施していません〉とのことです。マスタリングを担当したエンジニアのクレジットがありませんが、ブルーノートの選りすぐりの名盤ばかりをSACDで聴けるなんて夢のようなことです」

――アナログレコードでは不可能なことですね。

「若い頃はカッティングエンジニアから〈オノくん、こんな音は針とびするからミックスをやり直してきなさい〉とか言われました(笑)。いい音のアナログレコードを作るには、左右に広がる低音(逆位相)はNG、内周はしょぼくなるのを見越して曲順を考えたり、片面は17分、長くても22分以内がいい、など今さら指摘するまでもないでしょうが、アナログレコードには様々な技術的制約があります。

CDやSACDには、そのようなミキシング上の制約はありません。ぼくの仕事でもレコードカッティング用のマスタリングが増えています。テープやCD、アナログレコードの音は、技術的にはなんの遜色もなくSACDにも入りますが、SACDの音質やダイナミックレンジをそのままアナログレコードに入れるのは物理的に不可能です」