
70~80年代のファンクサウンドは僕の急所を突いてくる
――それでは、次の S.O.S.バンド『On The Rise』(1983年)ですね。レゲエからブラックコンテンポラリーの名盤へ。
「これも素晴らしいアルバムだ。実は僕のパートナーの持ち物で、借りっぱなしにしてるんだけどね。
“Tell Me If You Still Care”は、史上最高の1曲だと心から思う。ディアンジェロのカバーで知ったんだ。聴いたのは、彼とクエストラヴが2人だけでやったバージョンだった。ディアンジェロはキーボードでコードとベースを弾きながら歌っていた。最高にファンキーなカバーだよ。それでS.O.S.バンドのオリジナルバージョンを聴いたんだけど、こっちもすごかった。というか、アルバム全体がすごかった。この時期の彼らのアルバムはどれも最高だよ。
(このアルバムをプロデュースしている)テリー・ルイスとジミー・ジャムのコンビが作り出すサウンドが好きなんだ。彼らのミックスが好き。さっきのアイジャーマンとは全然違うタイプなんだけどね(笑)。低音よりも高音に重きが置かれていて、美的な心地よさがある。大音量のクラブだけじゃなく、ほどよいスピーカーがあれば家で聴いてもいい音だと感じられるように設計されているんだ。
S.O.S.バンド以外にもこの時期にはいいバンドがたくさんいた。ギャップ・バンド、ダズ・バンド、1970年代末から1980年代にかけてのファンクバンドとかね。僕の急所を突いてくるサウンドを作り出しているんだ」
――デジタルなサウンドを使いつつも、まだ支配されていない、人間の力を残した絶妙なグルーヴを感じますよね。
「まさにその通り。もう少し後になると、コンピューターの登場でレコーディングのシステムがどんどん変化してしまう。当時を知るエンジニアたちとこの話題をすると、コンピューターがスタジオに持ち込まれたとき、半数は〈こりゃすごい〉と歓迎したらしい。でも、もう半分は〈こんなものには関わりたくない〉と言ったんだって(笑)。
まあ、それはそれとして、僕はこのアルバムが好き。1970年代末から1980年代にかけてのファンクとダブには、僕にとって理想的なミキシングが施されている」

ハービー・ハンコックは新しいサウンドを作り、アップデートし続ける存在
――次のチョイスは、ハービー・ハンコック『Feets Don’t Fail Me Now』(1979年)ですね。当時の世評では、ディスコ向けアルバムだとけなされることも多かったそうです。

「でも、僕はこのアルバムが好きだな。バンド編成のファンク、ディスコ、そしてバラードな感じの曲もある。ハービー・ハンコックの全作品でも大好きな1枚だよ。ディスコ一辺倒のように思えても、ジャズらしいインプロビゼ-ションがあちこちにある。そのコンビネーションが好きなんだ。
アルバムタイトルも変わってるよね。〈我が足よ、俺をがっかりさせないで〉だって。ジャケも変だよ。だけど、彼が自分の足が向かうままに新しいことをやっているという意味は通る。変で最高だよね。
“Trust Me”という曲が入っているけど、これはある曲のカバーというか……、“Sonrisa”(ウェイン・ショーターと共演した1997年のアルバム『1+1』に収録)という美しい曲と一緒じゃないかな。“Sonrisa”はハービーのピアノソロ曲のようなアレンジだけど、その後で、この“Trust Me”を聴いたら、同じ曲じゃないかと気がついた。別のタイトルをつけたのは、たぶん、作曲印税が2回もらえるからだろうな(笑)」
――ミュージシャンとしてのハービー・ハンコックは、あなたにとってどんな存在ですか?
「あるタイプのサウンドで自分が有名になったとしても、次にまた別の新しいサウンドを作り出し、さらに大きな成果を挙げてゆく、そういうミュージシャンのひとり。アーティストとして、自分をアップデートし続けることができる存在って、とんでもなく稀なんだ。
たとえば、アルバム『Maiden Voyage』(1965年)で、すでに時代を牽引する存在だったのに、その後、ディスコやファンクでも時代をリードしていった。『Head Hunters』(1973年)に入っている“Chameleon”や“Butterfly”など他の曲がどれほど時代に大きなインパクトを与えたか。さらにそこから実験的な作品に挑み、ヒップホップまでやってのけた。そして今でもフライング・ロータスたちと対等に音楽をやっている。
彼が作り出す音楽は、それがオリジナルなサウンドであるだけでなく、流行を後から追いかけたものになっていない。追いかけるんじゃなくて、彼が生み出したサウンドから流行が広まっていく。驚くべきことだよ。“Rock It”(1983年)は、サンプリングを使った曲として初めてヒットチャートに入ったんじゃなかったかな。彼が新しい曲を作ることが、ひとつの新しい音楽そのものになる。だから僕はハービーが大好き。
もちろん、史上最高のジャズピアニストとしても。彼の影響を少しも受けていないピアノプレイヤーなんてありえない。世界中のピアニストたちから愛されているんだ」
