VaundyやKing Gnuがアルバムで表現したこと
振り返ると、2023年も同じテーマで検討したい作品が多かった。例えば、Vaundyの『replica』。全35曲(シークレットトラック“pained”を含めると36曲)でCD 2枚組、2時間超えという超大作だ。
アルバムから先行配信された“呼吸のように”を除くと、既発曲は実に20曲。しかし、その構成がVaundyらしいユニークなものになっている。ディスク2は、自ら語るとおり「これまでリリースした順番に楽曲が収録されている」のだ。「僕にとっては「replica」というアルバムは新曲で構成されているDISC 1のことで、DISC 2は全形態共通で付いてる特典みたいなもの」と率直に明かしてもいるが、ディスク1がコンセプトアルバム、ディスク2がSP盤時代のアルバム(あるいはベストやコンピレーション)と喩えられそうな、他にあまり例がない作品になっている。
Vaundyも米津もタイアップソングの名手として評価されているが、現在J-POPのタイアップ文化のトップに君臨する2人のアルバムに対する態度がこれほど異なっている事実は興味深い。
King Gnuの2023年作『THE GREATEST UNKNOWN』も、アルバムというフォーマットに対する独自の美意識が打ち出されていた。
同作は、既発シングル曲が11曲、最初と最後や曲間に配された短いインタールードが7曲、そして新曲3曲で構成されており、完全にシームレスではないものの、全曲が流れに沿って展開されていく、非常に統一的でコンセプチュアルな世界を形成したアルバムになっている。中には“千両役者”などアルバムバージョンでプロダクションが大きく変化した曲もあり、〈聴き覚えがある曲が並んでいるだけ〉という印象をまったく抱かせない。アルバムはアーティストにとっていちばん大事なフォーマットだ、アルバム単位でなければ伝わらないことを意識して制作した、という常田大希の意図がはっきりと感じられる作品だ。
Mr.Childrenの『miss you』は、既発曲を一切収録せず、全曲書き下ろしの新曲で構成された、完全なる新作として登場した。
“ケモノミチ”と“Fifty’s map ~おとなの地図”が先行配信されたとはいえ、まずはCDとしてアルバムが発売され、約1か月後にストリーミング配信が解禁された点には、〈アルバムという一つの作品として聴いてほしい〉という思いが窺える。
プロモーションとしてメンバーがインタビューを受けることもせず、ひっそりと世に届けられた本作については、〈ノンタイアップ〉ということがしばしば語られた。つまり、外部からの要望や期待に応えるために作った曲を収録していない、ということ。そのため『miss you』は、バンドの4人のピュアで鮮度の高い創作が横溢した、濃厚な作品だった。
YOASOBIはまさに現代J-POPの王者の一組だが、実はアルバムをまだ制作していない。『THE BOOK』シリーズはEP扱いなのだ。
大ヒット曲“アイドル”を含む『THE BOOK 3』に至るまで作品に収められているのは一貫してほぼ全曲が既発曲で、イントロ・アウトロ(『THE BOOK』)やインタールード(『THE BOOK 3』)が収録されることもある。〈小説を楽曲化するプロジェクト〉というコンセプトを反映した簡潔なタイトルが象徴的だが、既発曲が短編集的に取りまとめられたYOASOBIの諸作は本来的な意味でのアルバムだと言ってもいいかもしれない。
苦闘や模索が刻まれたJ-POPのアルバム
以上、J-POPの主流で活躍するアーティストたちと、その近作について考えてみた。アーティストごとに態度はそれぞれまったく異なっており、現在のJ-POPアルバムは多面化・多様化し、かつてのように一面的ではない。各作品を見ていくと、現在のJ-POPを取り巻く環境(ストリーミング、短尺動画、タイアップソングetc.)とどう折り合いをつけて、なおかつクリエイティブにアルバムと向き合っていくのか、その苦闘や模索とも言えるものがシングル以上に刻まれているように感じられる。
J-POPにおけるアルバムは今、変化の難局に差し掛かっているからこそ、アーティストの創造性や音楽に対する姿勢・思想、リスナーの感覚の変遷、市場や消費の趨勢をわかりやすく映す鏡である。「アルバムは今も大事だ」というプリンスの言葉がまた聞こえてくる。彼の考えはまだまだ失効していないようだ。これからも引き続き〈J-POPのアルバム〉〈J-POPとアルバム〉の動向を注視していきたい。
参考記事
https://note.com/ktotaiking1999/n/nacdd43b1a5ce
https://natalie.mu/music/pp/bumpofchicken22
https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi28
https://natalie.mu/music/pp/aimyong09
https://kadobun.jp/feature/talks/entry-80709.html
https://natalie.mu/music/pp/vaundy02
https://realsound.jp/2023/12/post-1525814.html
https://realsound.jp/2023/12/post-1521053.html



