Page 3 / 6 1ページ目から読む

家内制手工業や自家発電のような作曲

――過去のストックから曲を拾い上げて新たに収録することもありますか?

田中「ありますよ。今回も学生時代のストックから作ったのが何曲か入ってます。理由のひとつには、昔だとできなかったことが今はできるようになったので、曲を作り直して世に出せるというのもあるし、今後さらにそういうことはやっていきたい気持ちはあります。

さっきも言ったように、最近は新しい曲を作るときに被りを気にするところも多いので、そう考えたら手持ちは意外とあるのでそこから作り直せるものは作る。その過程での発見で新しい曲がかけたりもする。だから、家内制手工業や自家発電みたいなタームに入ってるかもしれないです(笑)」

――いちばん古い曲ってどれですか?

田中「“山の向こうに”は20歳くらいのときに作った曲ですかね。昔作ったCD-Rに入ってました。“ドライブ日和”は昔に作ったデモをそのまま収録してます。実はSide A用にギターやドラムを録り直したバージョンがあったんですけど、元のバージョンの気持ち悪さみたいなのが新しく録ったほうではいっさい出なくって。ベースはMTRに入ってるコンプを使ったせいかピッチも超危ういんですけど、そのバージョンを10年くらい聴き続けているんでそれじゃないと違う気がした。リテイクをし切れない音楽を自分は当時作っていたんだなとあらためて思いました。そういう意味では、今までの作品のなかではいちばん時代を行き来してるかもしれない。“naked”とクレジットした“The Flutter”も、デモ素材のままですね」

――そういう過去の自分を懐かしく見ます? それとも新鮮に感じます?

田中「……あんまり意識はしないかも。地続きですね。今32歳なんですけど、自分自身に老いみたいなのを、少なくとも音楽をやってるときは正直あんまり感じない。それはYouTubeに出した音源が当時のまま残っていたり、それこそカメラロールにずっと残っていたりするんで、それが断続性、連綿性みたいなものを作ってる気がします。〈当時〉というより全然地続きな感じです。

あと、もうひとついえば、最近の自分は外からの新しい影響が全然ないんです。現代のヒットチャート的な音楽に本気の本気でついていけなくなっちゃって、逆にXTCをめちゃくちゃ聴いてる、みたいな。自分のルーツに返ってますね。でも、昔聴いてた音楽でもレコーディングやライブなどを経た今だとディテールとかが全然違って聴こえたりする。自分のルーツをちゃんと掘り返して学ぶべきだろうなと最近は思ってます」

――最近、知り合いとAIシティポップの話をしてたんです。結局AIは参照を重ねてのクリエーションなわけだから、最終的にAIを使った曲作りは20世紀のポップミュージックにすごく感謝することになるんじゃないかと。

田中「自分もそういう感覚はめちゃくちゃあります。バンドでいろいろやってて機材の追求とかをしていくと、1970年代くらいでほぼ完成してるんじゃないかという気持ちになります。技術の発展と文化の衰退が反比例していて、人の感度が下がっていくのに対して技術がどんどん上がってる。人間が感じられるちょうどいいラインはすでに通り過ぎた感じがします。単純に自分の趣味が時代に合ってないだけかもしれませんが」