チャーリーxcxの通算6枚目となるスタジオアルバム『Brat』の爆発的なヒットを、誰が予想しただろうか。才能あふれるチャーリーxcxのことだから、いつかはポップシーンのど真ん中を闊歩するアーティストになるだろうとは思っていた。来るべきときが来た、そう思った人もいるはずだ。
2024年に最も躍進し、最高にクールな表現者の一人であったチャーリーxcxの1年を、ライターのノイ村に総括してもらった。知る人ぞ知る存在から誰もが知る存在へ、チャーリーxcxの2024年がいかに充実していたかを、ぜひ確かめてみてほしい。 *Mikiki編集部
『Brat』旋風の予兆
例年以上にサプライズの多かった印象のある2024年の音楽シーンだが、その中でも特に重要なトピックの一つが、チャーリーxcxが巻き起こした『Brat』旋風であることは間違いない。世界中の音楽メディアの評価を集約したサイト、Album Of The Yearの年間チャートにおいて『Brat』は2位のビヨンセ『COWBOY CARTER』に2倍以上のスコア差をつけて1位を飾り、辞書出版大手の英コリンズは毎年恒例の〈Word Of The Year(今年の言葉)〉として〈brat〉(自信があり、独立心が強く、快楽主義的な姿勢を表すスラング)を選出した(ちなみに昨年は〈AI〉が選出)。紛れもなく2024年を象徴する作品となった同作の成功によって、チャーリーxcxは一躍ポップシーンにおける最重要人物の一人として名を連ねることになったのである。
チャーリーxcxと言えば、デビュー最初期こそアイコナ・ポップ“I Love It”やイギー・アゼリア“Fancy”へのゲスト参加、自身による“Boom Clap”のヒットによって注目を集めていたものの、以降は“Vroom Vroom”に象徴されるようにソフィーやA. G.クックといったPC Music勢と積極的に組むことを好み、ハードコアなポップ好きを中心に〈エッジーなポップアーティスト〉としての評価を確立してきた。
こうした活動や評価について、彼女がいわゆる〈大衆的な人気〉からある程度距離をとっている存在であることはファンも認めていただろうし、別にそのままでも良かった。きっと当時を知っているファンほど、2024年の彼女の活躍ぶりに驚かされたに違いない。
とはいえ、実は昨年の夏の時点でムーブメントの予兆は見えていた。映画「バービー」の劇中歌として起用された“Speed Drive”がスマッシュヒットを記録したのである。チャーリーの過去作にも参加しているPC Musicの秘蔵っ子、イージーファンのプロデュースによる2分にも満たないソリッドなバブルガムポップは、映画を起点にバイラルヒットを巻き起こし、チャーリーは(リードアーティストとして)デビュー初期以来の全英シングルチャートでTOP 10入り、全米でもBillboard Hot 100入りを達成した。
『Brat』のリードシングルである“Von dutch”においても同様にイージーファンがプロデューサーとして関わっていることを踏まえると、“Speed Drive”の手応えが『Brat』の方向性を決定づけたと考えても不思議ではない。