世界中で契りを交わした千葉雄喜と“チーム友達”旋風
そのようにポジティブな話題もネガティブな出来事も渾然一体となった状況のなか突き進んできたメグが心機一転、自身のレーベルとワーナーを通じて2年ぶりのアルバムとしてリリースしたのが『MEGAN』であり、そこからヒットしたのが“Mamushi”だった。
“Mamushi”が本国アメリカはもとより、ここ日本でも多大な注目を集めた理由の一つは、なんといっても千葉雄喜がフィーチャーされていることだろう。
千葉は、KOHHを名乗っていた時代にフランク・オーシャンの“Nikes”(2016年のアルバム『Blonde』の限定盤のみに収録されていた)に参加したり、マライア・キャリーの“Runway (Remix)”にフィーチャーされたりと、国際的にもかなり活躍したラッパーだ。それでも6月22日に『MEGAN』のトラックリストが発表された時点で、〈えっ、あのメグと千葉雄喜が!?〉と話題になったことは記憶に新しい。そんなリリース前の期待を大きく上回る形で、“Mamushi”はかなりのバズを生んだ。
とはいえ“Mamushi”のヒットがなかったとしても、千葉は2024年のヒップホップシーンにおける顔役になっていたと言えるだろう。2021年にKOHHとしての活動から引退した千葉は、エッセイの執筆やプロデュースワークなどで2023年に復帰したものの、基本的には表立った活動をしないままだったが、今年2月13日に“チーム友達”を突如リリースして大々的な復活を果たした。KOHHもとい千葉雄喜の復帰という話題を飛び越えて、“チーム友達”がどでかい旋風を巻き起こしたのは知っての通り。公式も非公式もごちゃまぜになった数々のリミックスを生み、メグを含む国外のヒップホップ関係者たちもこの曲に反応した。
広く知られているとおりメグは、アニメや漫画といった日本のカルチャーを極端に愛好している。今年3月には〈クランチロール・アニメアワード2024〉へ出席するため来日しており、その際に千葉や新しい学校のリーダーズと撮った写真をInstagramにポストしていた(ちなみにその際メグは、千葉に「僕のヒーローアカデミア」と「呪術廻戦」を見るようにすすめている)。また『MEGAN』には、どストレートな“Otaku Hot Girl”という曲が収録されている。「呪術廻戦」の英語版声優アダム・マッカーサーの起用やサンプリング、「NARUTO」への言及、〈ありがとう〉など日本語の使用を通じてオタ女ぶりを貫いた彼女らしいラップソングだ。
お金稼ぐ 私はスター
そんな2人がコラボレーションしたのが、この”Mamushi”である。開口一番、イントロでメグは〈私はスター〉と日本語でラップし、コーラス(サビ)で〈お金稼ぐ 俺らはスター〉〈お金稼ぐ 私はスター〉と千葉と掛け合いを続ける。リッチなスターという自分たちの金力と有名人ぶりをこれでもかと誇示する、わかりやすすぎる典型的なセルフボースティングソングである。
私が名乗らなくたって、相手は私の名前を知っている
テトリスみたいに積み上げてるけど、この金はゲームじゃないっていう
〈私、かわいい いい体〉という日本語のラインに続いて、〈ボトルを飲み干し、ねじれてマルちゃん〉とマルちゃんのインスタントラーメンにも言及。バースの後半も、〈日本でもアメリカでも私に会ったらお辞儀するんだよ/友達のために円を稼いで、かわいいやつなら連れてきてよ/MADAM WOOでバカになって、口に酒(sake)を注いで/彼に言った 私を皿に乗せて箸で食べてみなって〉という日本ネタをねじ込んでいる。ちなみにMADAM WOOとは、渋谷、名古屋、心斎橋にある〈ジェントルマンズクラブ〉のこと。
千葉のバースもメグのラップに近いジュエリー自慢、そして宝石のごとく輝くスターとしての自負を語る内容だが、ラジオからテレビにはしごする様子の描写など多忙さが強調されている。そして〈Nicе to meet youする挨拶/I’m so happy ありがたいな〉という体姿勢な素朴さを感じさせるポジティブなラインで締めるあたりが、千葉雄喜節といった感じだ。削ぎ落とされたリリシズムの零度が際立っている。
なお曲名の〈Mamushi〉とは当然、強い毒を持つ蛇ニホンマムシのことで、メグの獰猛さになぞらえたものなのだろう(“Cobra”や“HISS”でも蛇のイメージが用いられていた)。一方でマムシは皮や身全体、目玉、肝などが栄養ドリンクや高級薬酒のマムシ酒として利用されるように、滋養強壮や健康促進にも用いられる(酒は2人のラップに出てくる要素だ)。〈Mamushi〉は、有毒性や力強さといったラッパーやセレブリティとして両者が持っているものを象徴していると言える。