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職人的かつアグレッシヴなバランス

 それにしても、紛うことなき黄金期を映し出すDisc-1の眺めが実に壮観。まず出迎えてくれるのが、ブラック・ミュージックへの接近を図った第2期ジェフ・ベック・グループの楽曲の数々で、天下のモータウンに吶喊をかけようという大それた野望によって創出された異貌のファンクが否応なしにハッパをかけてくれる。ブッカー・T&ザ・MG’sのギタリストだったスティーヴ・クロッパーをプロデューサーに迎え、彼所有のTMIスタジオでレコーディングされた通称〈オレンジ・アルバム〉からのナンバーがとりわけ香ばしい。ドン・ニックス作の爆音サザン・ソウル“Going Down”など流儀を無視して傍若無人に暴れまくるベックのトリッキーなプレイは、ブースで苦笑いするクロッパーの表情まで浮かんで見えてくるかのよう。マックス・ミドルトンの流麗なエレピが冴え渡る“Highways”、ベックの泣きのスライドが堪能できる“Definitely Maybe”もナイスな選曲だ。

 それに続くのは、剛腕ロック・トリオ、ベック・ボガート&アピスのコーナーだ。ティム・ボガート、カーマイン・アピスという元ヴァニラ・ファッジのリズム隊と繰り出す丁々発止のアンサンブルはひたすら粗野。もともとベックに送られるはずだったスティーヴィー・ワンダー作“Superstition”やヤードバーズ時代からのレパートリーのライヴ録音版“Jeff’s Boogie”など、ベックこそがハード・ロックの始祖、という定説を改めて実感せずにはいられないヘヴィーな音源(3者の抑制の効かなさがひとつの美学にまで昇華されている感すら抱く)の連発だが、凶暴な遊び心を膨らませながらも新しい音色やフレージングの追求に余念がないベックのクールな眼差しがやけに光ってみえたりもする。

 そしてベック史上もっともエポックメイキングな作品といえる『Blow By Blow』(75年)に始まるジャズ・ロック路線へと突入。9/8変拍子の熱っぽいリフとプロデューサーであるジョージ・マーティンの手掛けたストリングスが華麗に絡み合う“Scatterbrain”のえげつない突進力といったら。〈哀しみの恋人達〉という邦題があまりに有名なスティーヴィー・ワンダー作の“Cause We’ve Ended As Lovers”の叙情的で豊かな音世界も含め、トーン・コントロールやピッキング・ハーモニクスなどを駆使した独自の音色製法がここにきて格段にレヴェルアップしている感があり。そんな人心ならぬギター心の掌握術に長けた性質は、ベック流フュージョンの最高峰である『Wired』(76年)からの超絶ファンキー・チューン“Led Boots”などでも容易に窺い知れるが、彼の中のギター職人的な部分と音楽家としてのアグレッシヴな姿勢が拮抗し合うその絶妙なバランスこそが何よりもスリリングなのだと、このDisc-1を聴き終わる頃にはしっかり理解できていると思う。