生粋の音楽人間
2005~2006年に録られたという、未完に終わった映画のサウンドトラック『Faithless』は、米南部~メキシコ国境付近の雰囲気を湛えた世界がライ・クーダーとも通じる。『Lost And Found』にも選ばれた“Faithless”は通常のアルバムに入っていても違和感がない珠玉の名曲。ゴスペルの世界に浸り切った“God Sent You”も鳥肌ものだ。
それに続く『Somewhere North Of Nashville』は、『The Ghost Of Tom Joad』(95年)と同時期に録ったカントリー・ロック・アルバム。ペダル・スティール奏者、マーティ・リフキンの名演が聴ける “Repo Man”と“Detail Man”は圧巻だ。『Nebraska』からの繋がりを感じさせる“You’re Gonna Miss Me When I’m Gone”も強く印象に残る。
物語歌集といった趣の『Inyo』は、95~97年のツアー中に書かれた曲を含むそう。ネイティヴ・アメリカンの土地だったカリフォルニアのイニョー郡に水路を通した、100年以上前の人々について歌う“Inyo”では、ストーリーテラーとしての魅力を存分に発揮。マリアッチ・バンドを迎えて朗々と歌う“The Lost Charro”など、移民にまつわる曲も多い。
意外性で言うと、『Twilight Hours』のインパクトが凄い。先に公開された“Sunday Love”がわかりやすいが、このアルバムはバート・バカラックを意識した、オーケストラル・ポップ的な作品なのだ。2010年頃から『Western Stars』と同時に作りはじめられていたそう。普段使わないコードやリズム・チェンジも意識的に取り入れた結果、ブルースのポップ・サイドが見事に開花した。かと言って別人になってしまった感じではなく、“September Kisses”のメロディーは“Born To Run”のイントロから地続きな感じがある。
『Perfect World』だけは、異なる時期の音源から構成したそう。王道のロック・チューン“I’m Not Sleeping”も素晴らしいが、アニマルズを思わせる“Another Thin Line”や、打ち込みのビートを使った“Cutting Knife”など、異常な打率の高さに思わず唸ってしまう。
この大容量ボックスを通して聴くと、これまでの音源が、実はブルースの限られた面しか伝えていなかったことに誰もが気付くはず。ここまで多作になった背景として自宅にスタジオを構えたことは大きいそうだ。ツアーに出ていない時期も、ほぼ毎日スタジオに籠って創作に励み続けてきたと思われる音楽人間の多様な魅力を、味わい尽くしてほしい。
ブルース・スプリングスティーンの『Tracks II: The Lost Albums』に関連した作品。
左から、99年の編集盤『18 Tracks』、82年作『Nebraska』、84年作の40周年記念盤『Born In The U.S.A.(40th Anniversary Edition)』(すべてColumbia)
ブルース・スプリングスティーンの『Tracks II: The Lost Albums』に関連した作品と参加作。
左から、93年のサントラ『Philadelphia』(TriStar)、95年作『The Ghost Of Tom Joad』、2019年作『Western Stars』(共にColumbia)