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「ピアノを弾くことが、この世界における自分なりの戦いだとも思っています」

 アルナルズのいう〈war〉は苦悩や葛藤といった内面の問題を指すが、現在ほどそれらが社会的、国際的な位相と無媒介につながる時代もない。ソーシャルメディア云々を論じるのは本稿の任ではないが、しかしけっして明るい展望ばかりの時代ではないとはいえるかもしれない。

 「ロマンチストだといわれるかもしれないけど、私は音楽が最大の革命だといまでも信じています。私は銃をもって戦う人間ではないけど、ピアノを弾くことが、この世界における自分なりの戦いだとも思っています。大切なのは人は変わることができるということ。みんながそれぞれの役割をもち、それが目的となり、集まれば、かならずなにかが起こる、と思っています」(アルナルズ)

 「私はいま、アルバムをつくっているんですが、すごく時間がかかっています。モチベーションというか、この時代になにをつくればいいか、なにを歌ったらいいかと、行き詰まっていたんです。でもそれを友人のミュージシャンと一緒に進めていくうちに、また希望をとりもどせた、ということもあって──出るのは来年かな」と坂本美雨は晴れやかな表情で来たるべきアルバムのリリースを予告する。

 「悲しみの置き場ではないけれども、どこにそれを向けていいかわからない感情のようなものもアルバムには込められるのかもしれない。美雨さんがそうやって、世の中で起こっていることへの思いを込めることで、だれかの役に立つ聴かれ方をするのではないでしょうか」(アルナルズ)

 友人の生の光芒を『A Dawning』と題した一枚のアルバムにまとめたアルナルズだけに、穏やかだが、確信に満ちた口調であった。

 


坂本美雨(Miu Sakamoto)
1980年、音楽一家に生まれ、東京とNYで育つ。1997年1月、Ryuichi Sakamoto featuring Sister Mとして“The Other Side of Love”を歌う。1999年、 映画「鉄道員」の主題歌“鉄道員(TETSUDOIN)”をリリース。同年9月、フルアルバム『Dawn Pink』のリリースより本格的に音楽活動をスタート。2011年10月より、TOKYO FMをキー局に全国38局で放送中のラジオ番組「ディアフレンズ」パーソナリティを担当。2014年、愛猫〈サバ美〉への偏愛フォトエッセイで初の自著「ネコの吸い方」を幻冬舎から発刊。2024年4月よりNHK Eテレ「日曜美術館」の司会に就任。音楽活動に加え、ラジオテレビの司会、執筆、演劇、愛猫家(ネコ吸い妖怪)など、表現の幅を広げている。

オーラヴル・アルナルズ(Ólafur Arnalds)
1986年、レイキャヴィークから数km離れたモスフェットルスバイル郊外に生まれたアルナルズは、スタジオ録音・ライブ双方を通じてジャンルを越えた活動を続けている。2007年にデビューアルバム『Eulogy For Evolution』をリリース後、国際的なファンを獲得し、クラシック、ポップ、アンビエント/エレクトロニカの影響を独自の音楽言語に昇華した、複数のジャンルにまたがる作曲家として知られている。2010年4月にはセカンドフルアルバム『...And They Have Escaped The Weight Of Darkness』をリリースし、中国を含む大規模なツアーを行なった。2013年2月には、新たに契約したマーキューリー・クラシックスからサードアルバム『For Now I Am Winter』をインターナショナルリリース。この新作ではフルオーケストラとボーカルを初めて起用し、アイスランドの歌手アルノール・ダンが4曲を歌っている。