現在の心境を映したアルバム
個人的に特に感心させられたのは、エドのヴォーカルの多彩さだ。さまざまなスタイルや声色を使い分けることができるのは以前から承知していたけれど、〈え、このフィーチャリングは誰?〉と思って、クレジットを幾度見直したことか。あれもこれもエド本人の歌唱というのには、改めて驚かされた。ストリートで鍛えたラップやグライムがお手のものなら、曲の途中で歌い方を変えたり、声色を変化させたり、エフェクトを用いたり、遊び心も満載だ。そんな軽やかなフットワークもポジティヴで楽しいアルバムのムードに貢献し、華を添えているのは間違いない。
その一方で、“Old Phone”では、古い携帯電話の電源を入れてみたら、そこに見つけた亡き友人との会話、別れた恋人からのメッセージなどを巡り、いたたまれない気持ちが、ややぶっきらぼうにぶつけられる。ひときわドラマティックな歌唱で圧倒する“Camera”などからは、彼のロマンティストな一面もたっぷり窺えるし、妻チェリーや2人の娘に宛てたと思われる数々のラヴソングからは、アーティストとしてのみならず、夫として父親としてのエドの横顔や温厚な人柄、愛情に満ちた生き様がたっぷり伝わってくるはずだ。
2024年1月には、〈+-=÷× 2024 Tour〉で来日し、東京・大阪のドームで3公演を開催。同年9月にリリースしたコンピ『+-=÷× (Tour Collection)』は本国UKのアルバム・チャートで通算8作目のNo. 1を獲得し、いまなお世界中でセールスを上げ続けている。このニュー・アルバム『Play』でさらなる記録が更新されるのは間違いないだろう。
『No. 6 Collaborations Project』(2019年)、先述の『Autumn Variations』といった横道を間に挿みつつ、2011年のメジャー・デビュー以来『+』『×』『÷』『=』『-』と続けてきた〈マスマティックス・シリーズ〉をいったん終了し、新たなチャプターへと踏み出したエド・シーラン。この後、どのようなシリーズが続くのかは不明だが、本作のタイトル『Play』には、プレイボタンの〈再生〉や〈演奏〉という意味もあるけれど、〈楽しむ〉〈遊ぶ〉という意味に解釈することもできるはず。まさに今回のアルバムの内容や現在の彼の心境にピッタリのタイトルではないだろうか。 *村上ひさし
エド・シーランが参加した近作。
左から、2025年のサントラ『F1 The Album』(Atlantic)、パッセンジャーの2012年作の新装盤『All The Little Lights (Anniversary Edition)』(Nettwerk)、メイジー・ピータースの2023年作『The Good Witch』(Gingerbread Man/Atlantic)
『Play』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ジョニー・マクデイドが在籍するスノウ・パトロールの2024年作『The Forest Is The Path』(Polydor)、デイヴの2021年作『We’re All Alone In This Together』(Neighbourhood)、ピノ・パラディーノ&ブレイク・ミルズの2025年作『That Wasn’t A Dream』(Impulse!)、ジョン・メイヤーの2021年作『Sob Rock』(Columbia)
エド・シーランがソングライティングで参加した近作。
左から、ボン・ジョヴィの2024年作『Forever』(Island)、ダリアス・ラッカーの2023年作『Carolyn’s Boy』(Capitol Nashville)、サーティ・セカンズ・トゥ・マースの2023年作『It’s The End Of The World But It’s A Beautiful Day』(Concord)