AUTUMN ALMANAC
数学記号シリーズを完結したエド・シーランが綴る新しい物語。アーロン・デスナーと作り上げた『Autumn Variations』はこのポップスターのピュアな本質を美しく表現している!
5月にリリースされた6作目のアルバム『− (Subtract)』に続いて、エド・シーランが早くもニュー・アルバム『Autumn Variations』を完成させた。〈秋〉をテーマにした全14曲。紅葉や黄昏、物悲しさや哀愁といった、この季節特有のサウンドが聴こえると同時に、安心させてくれる柔らかな心地良さに包まれる。これからのシーズンにもピッタリ。やはりこのタイミングで出しておきたかったアルバムなのだろう。
歌われるのは秋についての心情やトピックで、それぞれの曲がエドの異なる友人たちをモチーフにしたもの。父と兄から教わったというクラシック作曲家、エドワード・エルガーが同様のコンセプトで制作した“Enigma Variations”（エニグマ変奏曲）がヒントとされている。妊娠中の妻に腫瘍が見つかったり、親友を突然亡くしたり、盗作疑惑で訴えられたり。さまざまな困難が次々と降り掛かってきたここ数年の彼だが、いま一度立ち止まり、じっくり人生を見つめ直したかったのだろう。〈秋〉のムードに癒されたい、そんな彼自身の心の声も聴こえるかのようだ。
普段、家では妻と一緒に料理を作りながらノラ・ジョーンズのアルバム『Come Away With Me』やジャック・ジョンソンの『In Between Dreams』などを聴いているというエド。これまで彼自身はそういった統一感をもったアルバムを作ったり、ひとりのプロデューサーと仕事をしたことがなかったけれど、今回は初めてそれに取り組んだ。前作『−』に協力していたアーロン・デスナー（ナショナル）が共作と、アルバム全体のプロデュースを担当（1曲には双子のブライス・デスナーも参加）。テイラー・スウィフトの『folklore』『evermore』から、立て続けに彼女が発表している一連の再録アルバムでも大いに腕を揮っている彼とは、すぐに意気投合。前作とほぼ同時進行で本作もレコーディングされていたそうだ。
“Shape Of You”の系統にある曲や“Bad Habit”のような派手なアッパー・チューンは見当たらないものの、エドのソングライターとしての資質や真摯さが改めて窺える本作は、自身のレーベル＝ジンジャーブレッド・マンからのインディー・リリース作品（流通は変わらずワーナーから）。当人は「ヒット・シングルを出すつもりはないんだ」と語り、「ずっとポップスターとしてやってきて、あれをして、これをして、ヒット曲を出して、というプレッシャーから解放されたかったんだ」とも打ち明ける。常に音楽レースのトップを走ってきた彼が、いったん身を引いて、自由に羽を伸ばした番外編とも言えるだろうか。
アルバムからは正式なシングルはカットせず、MVも作らず、大々的なプロモ活動なども一切行われていない。が、その代わりに、ファンの家に押しかけて生演奏を披露したり、チャリティー・イヴェントに参加したり、ポッドキャストに出演したり。インディー・アーティストを思わせる地道な活動に徹している。とはいえ〈ヒットは要らない〉という彼の言葉とは裏腹に、すでにアルバムは本国イギリスで1位を獲得し、世界のチャートを席巻中だ。デビュー以来ずっと続いてきた数学タイトルのシリーズは『−』で完結。続く本作のテーマが〈秋〉ということは、ここから四季のシリーズがスタートしているのかも!?
