Photo by Naoki Hashimoto

色とりどりの未来へ

 色も音もいろいろに響き出す。それぞれのありかたも、感覚も、象徴も、描写としても。

 ジャズ作曲家の挾間美帆がコンサート・ホールを彩る〈NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇〉。3年目の副題は〈スプラッシュ・ザ・カラーズ!〉という鮮やかな響きだ。挾間の同名新曲に向かって、歴史的な作家たちを訪ねながら、さまざまな色彩をくり広げる構成。コロナ禍を受けて昨年同様に規模を凝縮し、彼女自身の指揮、挾間美帆m_big bandと東京フィルハーモニー交響楽団の共演で、生音での精彩なアンサンブルにさらに磨きをかけていくことになる。

 「“スプラッシュ・ザ・カラーズ”という私の近作がまず頭のなかにあって、他にも色がタイトルにつく曲を集めました。プログラムを組んでみて気づいたのは、色ってたんなる色じゃなくて、色の使い方や表現の方法にはすごく多様性があり、それを音楽で描写できる可能性があるということですね。デューク・エリントンの“ブラック・ブラウン・アンド・ベージュ”は文字どおり人種の象徴。穐吉敏子さんの“ロング・イエロー・ロード”も肌の色からくる人生の描写であったり、ご自身の記憶と歴史を描写していたり。マリア・シュナイダーの“グリーン・ピース”の場合はたぶん彼女が生まれ育ったミネソタの森やそこでみえるもので、これはまったくの色彩。私の曲は、自分が色を使ってなにかをしている行為に対する描写です」

 “スプラッシュ・ザ・カラーズ”は、挾間が常任客演指揮者を務めるオランダのメトロポール・オーケストラのために書き下ろした曲で、コンサートでの演奏は世界初となる。首席指揮者を務めるデンマーク放送ビッグバンドとの録音も終え、全曲挾間のオリジナル作品で構成された新譜として、この秋にイギリスEdition Recordsから発売が決まっている。

挾間美帆, DANISH RADIO BIG BAND 『IMAGINARY VISIONS』 Edition Records(2021)

 「メトロポール・オーケストラの75周年記念アルバムに収録する作品として、もともと祝賀的な意味合いが強い委嘱でした。しかも、私がメトロポールに書くいちばん最初の作曲作品になったんです。メトロポールのサウンドといえば、やはりヴィンス・メンドーサが組み上げてきた色彩感、パレットにある色の多さがなにものにも代え難い。それを一気にぶちまける、壁に当たってそれが跳ね返る、投げつけては跳ね返って、みたいなペイント的なイメージ。それが絶対に曲の最初にくるという直観があり、最初の2小節をかなり時間かけて書きました。今回のコンサートではバランスをよく配慮して、完全な生音で演奏します。録音物をパズルのように組み上げるのではなくて、作品として生で音圧を組み立てるという新しい作業。なにかミルフィーユを組み立てていくみたいな感じですね」

 ラヴェルやレスピーギのオーケストレーションに長らく魅了されてきた挾間美帆だからこそのアコースティックな色彩感も鮮烈に響き出すことだろう。

 「そうですね、ヴィンス・メンドーサに対抗してやるぞって言って、ラヴェル、レスピーギ、バーンスタインの破片でできた脳みそが鉢巻巻いて机に向かったという感じ(笑)。メトロポールの録音プロデューサーからは、私の弦の書き方はすごく特殊だと言われました。それぞれのパートが縦横無尽に行ったり来たりして、オレンジのカラーをつくるのにも黄色の部分を担当していたのか、赤なのか橙なのか、それとも水だったのか、油なのか、それともキャンバスだったのか。同じ色を描写するにも役割が変わりますからね」

 初回はシャイ・マエストロのピアノ、昨夏は渡辺香津美のギターときて、3年目は吉田沙良のヴォーカルがゲストとして加わる。

 「吉田沙良ちゃんはモノンクルとして大活躍ですけれど、彼女自身ヴォーカリストとしてカメレオンみたいに、幅広いところに入り込んでいける音楽性の持ち主。その意味で、色に同化することもできるし、そこに自分のカラーも投映できるシンガーだと思います」

 さまざまなシンフォニック・ジャズを通じて、コンサート・ホールいっぱいに多彩な色が湧き返りそうだ。

 「全体的にエネルギーがある曲が多いですし、お客様に溌剌とした色というか、元気というか、パワーみたいなものが音として伝わればいいなと思っています。このご時世ですし、なによりも奏者たちが楽しんでしまうという現象が生まれる気もしており、それがヴィヴィッドに伝わるようなコンサートになれば……」

 


挾間美帆 (Miho Hazama)
作・編曲家。国立音楽大学およびマンハッタン音楽院大学院卒業。坂本龍一、鷺巣詩郎、グラミー賞受賞音楽家であるヴィンス・メンドーサ、メトロポール・オーケストラ、NHK〈歌謡チャリティコンサート〉など多岐にわたり編曲作品を提供。2017年、シエナ・ウインド・オーケストラのコンポーザー・イン・レジデンスに、2018~2019年、オーケストラ・アンサンブル金沢のコンポーザー・オブ・ザ・イヤーを務める。2019年シーズンからデンマーク放送ビッグバンド首席指揮者、2020年8月からオランダの名門メトロポール・オーケストラの常任客演指揮者に就任。

 


LIVE INFORMATION
NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇 スプラッシュ・ザ・カラーズ!

2021年7月30日(金)東京・西池袋 東京芸術劇場 コンサートホール
開場/開演:18:00/19:00

■出演
挾間美帆(指揮)
東京フィルハーモニー交響楽団
挾間美帆 m_big band:池田篤、辻野進輔、吉本章紘、西口明宏、竹村直哉(サックス)/真砂陽地、広瀬未来、河原真彩、石川広行(トランペット)/半田信英、高井天音、高橋真太郎、野々下興一(トロンボーン)/佐藤浩一(ピアノ)/須川崇志(ベース)/高橋信之介(ドラムス)/吉田沙良[モノンクル](ヴォーカル)

■曲目
デューク・エリントン “ブラック・ブラウン・アンド・ベージュ”
穐吉敏子 “ロング・イエロー・ロード”
マリア・シュナイダー “グリーン・ピース”
挾間美帆 “スプラッシュ・ザ・カラーズ”(日本初演) ほか

www.geigeki.jp/performance/concert231/