寺田創一によるテクノ民謡プロジェクトOmodakaが、ニューアルバム『Tinsagu Nu Hana(てぃんさぐぬ花)』をリリースした。コロナ禍以降もコンスタントに楽曲をリリースし続けていたOmodakaだが、それら既発曲を新たにミックスし直し、さらには新曲も追加して全19曲入りという大盤振る舞いな新作を完成させた。

『Tinsagu Nu Hana』の制作背景、そして同日にリリースされた金沢明子の7インチ盤『秋田大黒舞/秋田音頭』について寺田本人に話を訊いた。 *Mikiki編集部

Omodaka 『Tinsagu Nu Hana』 Far East(2026)

 

興味は競艇から民謡へ

――何故、今このタイミングで19曲入りのアルバムを出そうと思ったのですか?

「新型コロナの影響によるパンデミック以降、Omodakaの作品を少しずつリリースしてきて、それに伴いライブパフォーマンスもやってきたんですけど、曲数も溜まってきたので一つのパッケージにしたいなと思ったんです。物理的なメディアにするならCDには通常74分入るので、なるべくたくさん入れたいなと。プレイリスト的な並びをイメージしながら最終的には19曲入りで68分間のアルバムになりました。

前半の9曲は最近作りまして、パンデミック以降に作っていた曲をさらにアップデートしました。後半は昔に作っていた曲ですが、〈2026 Mix〉と曲のタイトルに付けてある通り、ミックスのバランスを整えたくらいでさほど変わってはいないです。競艇の曲(“競艇甚句”など)も数曲入っているんですけど、Omodakaを始めた頃は競艇に興味があって、それをテーマにした曲をたくさん作っていたんですよね」

――Omodakaといえば民謡という印象を持つ人も多いかと思いますがが、実は競艇から始まったんですよね。

「最初は、モーショングラフィックスの映像作家の方たちとコラボレーションしたくてOmodakaを始めたんですが、ちょうどその頃、競艇にすごく興味を持っていた時期でもあったんです。その少し前からパチンコの曲とかギャンブル関連の楽曲を作り始めていて、それで次は競艇かなと思っていたら、個人的に競艇が面白すぎてのめり込んでしまいまして(笑)。

初めて競艇場に行ったときに、場内のやさぐれた感じに衝撃を受けたんですよ。大人たちが喧嘩をしていたり、泣き叫んで地面にのたうち回っている人がいたり、なんてやさぐれた場所なんだと思って。と思ったら札束をカバンに入れてる人なんかもいて、天国と地獄がなんかこう……世の中の縮図みたいなところだなと思ったんですね。

その競艇の曲を作っていた時期にも⺠謡のリミックスも作っていたんです。それから6、7年経って競艇の曲を作り尽くした後に、その⺠謡のリミックスの方に関心が移っていきまして、そのまま民謡に興味を持つようになったんです。なので民謡を取り上げたのは成り行きというか、そのときのグルーヴみたいなものですね」

――最初に民謡とハウスミュージックを掛け合わせたきっかけはなんだったのですか?

「きっかけは、1991年にリリースされた金沢明子さんの曲をハウスミックスした企画盤(『金沢明子 HOUSE MIX I』)ですね。最初、資料として金沢さんが歌う⺠謡の音源をいただいたんですけど、それを聴いてかなり衝撃を受けたんです。それまで⺠謡を聴く機会なんてほとんどなくて、盆踊りのときに耳にするくらいだったんですけど、企画盤をリリースした1991年に金沢さんとライブでご一緒する機会が何度かあって、そのときにも改めて民謡は面白いなと感じました。

その後、民謡関連の制作をしない時期もあったんですが、Omodakaでモーショングラフィックスの方たちとコラボしたときに、何故か〈金沢さんに民謡を歌っていただきたい〉という気持ちが蘇ってきたんです。ハウスミックスの企画当時のことも思い出して、歌は毎回録り直し、それぞれの歌の収録の際は金沢さんに純邦楽の伴奏(三味線、尺八、和太鼓)で歌っていただきました」

『金沢明子 HOUSE MIX I』が発売された1991年に東京・寺田倉庫で行われたライブの模様

 

どんなポップスでも100年後には⺠謡になるかもしれない

――改めて寺田さんは⺠謡をどんな音楽だと捉えていますか?

「東アジアにはその地域特有の⺠族的なメロディーや音階、スケール感というのがありますが、民謡はそれが長期にわたり反映されてきた音楽という感じがします。特にメロディーに表れやすいと思うのですが、地域によってはリズムやビート、和声なんかに出ている場合もありますね。さらに文化や宗教なども影響して、その地域特有の⺠謡として聴こえてくるというか。

それと同時に、この民謡はロシアからの影響があるなとか、インドネシアの音楽とそっくりな音階があるなとか、違う国との繋がりを感じたりもします。あと日本が鎖国していた時代の音階と、明治維新以降の音階ではスケール感が違うのですが、そうした時代ごとの変化を感じさせてくれるのも民謡という音楽だと思います」

――このアルバムを通じて改めて民謡をじっくり聴いたのですが、昔の人々の生活が垣間見える音楽だなと思いました。

「最近、自分が歳を取ったからだと思いますが、昔聴いていた曲の歌詞を見ると、今では通じなくなっているストーリーがあったりするんですよね。当時は大人気だった曲でも、何十年か経つと何のことを歌っているのか半分わからないみたいな。

例えば、僕は1965年生まれなんですけど、中学の頃に聴いていた曲の中に出てくる〈電話〉は固定電話なわけですよ。今とは生活のインフラが違うし、なくなった言葉もあるじゃないですか。それに人とのコミュニケーションの取り方も変わってきているから、どんなポップスでも100年、200年経ったら⺠謡になる可能性があるなと感じることはありますね」

――黒電話や公衆電話を知らない若い世代も今は多いですからね。

「テレホンカ-ドの存在とか、それを公衆電話でどう使うか知らない若い人の方が今は多いですよね。だから約800年前の鎌倉時代から歌われてきたとされる“ひえつき節”の〈あなたの家に着いたら鈴を鳴らすから、馬に水をあげると言って外に出てきてくれ〉みたいな歌詞は、当時の人にとってはとても現実的かつロマンチックな描写だったんじゃないかなって」

――“Oedo Nihonbashi(お江戸日本橋)”は女郎も出てきたりして、日本橋から京都までの旅行記とでも言いますか。

「あの曲は〈ここの場所にはこういうお店があって、こんな遊郭もありますよ〉っていう江戶時代の風俗ガイドの歌らしいですよ(笑)」

――それと昭和を生きた人はほぼ耳にしている〈エンヤーコラヤット ドッコイジャンジャンコーラヤ〉というフレーズは、改めて民謡からの引用だったんだなと再確認しました。

「僕も確実にその世代ですけど、『8時だョ!全員集合』のオープニングでザ・ドリフターズが歌ってたのは“北海盆唄”の替え歌だったんですよね。ドリフターズって、コントのときにファンクを使っていたりしてめちゃくちゃかっこいいんです」

――⺠謡は思わず口ずさんでしまうような、耳に残るものが多いですよね。映像も制作された“Donpan Bushi(どんぱん節)”は、骸骨の動きと歌声がマッチしすぎて脳裏に焼き付いてしまいました。

「あの骸骨は、Omodakaのミュージックビデオを手がけてくれている牧鉄平さんが普段よく使っているキャラクターなんです。YouTubeの概要欄に書いた〈苦悩や心配のない場所に旅立った亡き家族へ向け、また来年会おうという見送りのメッセージ〉というのは実は後付けの説明なんですけど、映像はいい感じに仕上がっていて嬉しいです」

 

プロモ用に制作した金沢明子の7インチ盤

――『Tinsagu Nu Hana』と同日には金沢さんの“秋田大黒舞”“秋田音頭”のレゲエミックスを収めた7インチ盤も発売されますが、こちらはどういった経緯でリリースすることになったのですか?

「先ほど少し触れた『金沢明子 HOUSE MIX I』を1991年にリリースしたとき、プロモーション用に7インチ盤を作りたいとビクターにお願いしたらOKが出て、その2曲を収録した100枚ぐらい非売品の7インチホワイト盤を作ったんです。だけど、当時自分が上手く人づてにプロモーションできなくて、在庫がデッドストックとして手元に残ってしまいました。

パンデミックの最中にOmodakaでオンラインライブをやったんですけど、その宣伝材料として、90年代に作ったステッカーを買ってくれた人にはその7インチが付いてくるという形で物販を行ったんです。それで抱えていた在庫は捌けたんですけど、昨年とある販売店の方から〈プロモーション盤はまだありますか?〉と問い合わせを受けまして。もう手元にはないとお伝えしたら、再発するのはどうかという話になりました。そこからレコード会社の方にライセンスしてもらえるようお願いして、今回のリリースに至った感じです」

2020年12月に行った配信ライブ〈合成的な性質〉の合成の様子を捉えた映像

――当時はどのような状況でリミックス作業をしていたんですか?

「『金沢明子 HOUSE MIX I』は、自分だけでなく他にも数名のリミキサーがいて、金沢さんの歌をそれぞれが分担してリミックスするという制作の仕方でした。アレンジャーだけでも4、5人くらいいたと思います。金沢さんの⺠謡を純邦楽の演奏家による伴奏でパートごとに一発録りして、さらにその歌や楽器をパートごとにDATテープに入れて各リミキサーに渡す。そして各々がそれを編集したり、いろんな音をくっつけて楽曲を完成させるというやり方でした」

――寺田さんはそこでレゲエにアレンジしたんですね。

「1人2曲という振り分けだったんですけど、僕はたくさん曲をリミックスしたくて勝手に何曲も作っていた記憶があります。レゲエもあったし、グラウンドビート的なものやハウスみたいなトラックも作りました。当時もプロモーション盤に収録した2曲なので、改めて製品盤として7インチでリリースされるのは感慨深いですね」

 

新作はデコトラのようなアルバム

――ここ数年クラブ界隈の現場では、世界的に見ても90年代のハウスミュージックに回帰しているように感じます。寺田さんは海外でライブを行うことも多いと思いますが、どんなことを意識してプレイしていますか?

「国というよりは、オーガナイズされたパーティーによって雰囲気が違うので、ハウスやテクノに溢れる夜になることもあるし、テンポが大幅に動くような雰囲気になるときもあります。僕の主観としては、イベント中ずっとハウスやテクノだけがかかっているというより、全体的により自由になっているような状況で、それにつられて自由な気持ちで演奏することを心がけています。またその感じが自分にフィードバックされて、曲作りに影響することもありますね」

――レゲエもハウスもルーツのある音楽ですが、それらを民謡と掛け合わせることで人々にどんなことを伝えたいのでしょうか?

「それがね、特にないんです(笑)。理念や信念がないというか、僕の場合は好奇心だけなんですよ。⺠謡という音楽が人間だとしたら、自分の妄想の中でその人間にいろんな衣装とかを着せてデコるような感じ。例えば、もしその⺠謡がトラックだとしたら、いろんなパーツや装飾をつけてデコトラにするとか、多分そういう感覚に近いと思います。

『Tinsagu Nu Hana』も、ここ数年自分がデコった作品をまとめたものという感じです。自分が思う⺠謡の着せ替え人形……いや、やっぱりデコトラですね(笑)。デコトラ大集合のようなアルバムを皆さんにぜひ聴いてみて欲しいです」

 


RELEASE INFORMATION

Omodaka 『Tinsagu Nu Hana』 Far East(2026)

リリース日: 2026年3月25日(水)
品番:FER06950
価格:1,650円(税込)

TRACKILIST
1. Ina Bushi (2026 Mix)/伊那節
2. Dodarebachi (2026 Mix)/ドダレバチ
3. Donpan Bushi (2026 Mix)/どんぱん節
4. Mamurogawa Ondo (2026 Mix)/真室川音頭
5. Tinsagu Nu Hana/てぃんさぐぬ花
6. Yosakoi Bushi (2026 Mix)/よさこい節
7. Owase Bushi (2026 Mix)/尾鷲節
8. Hokkai Bon Uta (2026 Mix)/北海盆唄
9. Gujoh Bushi (2026 Mix)/郡上節
10. Bisraam (2026 Mix)/ビスラーム
11. Lumbini/るんびに
12. Mogamigawa Funauta (2026 Mix)/最上川舟唄
13. Oedo Nihonbashi (2026 Mix)/お江戸日本橋
14. Kyoteizinc (2026 Mix)/競艇甚句
15. Hohai Bushi (2026 Mix)/ホーハイ節
16. Cantata no147 (2026 Mix)/万舟のカンタータ
17. Tawaratsumi Uta (2026 Mix)/南部俵積み唄
18. Fortunate 1mark (2026 Mix)/運命の1マーク
19. BWV 1007/無伴奏チェロ組曲第1番

Produced by Omodaka
Vocals by Akiko Kanazawa
Music, Words & Performed by Soichi Terada
Except 09.CZ-5000 by Satoshi & Makoto
16.19.Music by J.S.Bach
Mastered by Stefan Betke (Scape Mastering)
Art Direction & Design by Kentaro Fujimoto

 

金沢明子 『秋田大黒舞/秋田音頭』 ビクター/ローソンエンタテインメント(2026)

リリース日:2026年3月25日(水)
品番:NKS-779
価格:2,420円(税込)
仕様:7インチシングルレコード

TRACKILIST
Side A
1. 秋田大黒舞

Side B
2. 秋田音頭

編曲:寺田創一(Far East Recording)