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それでも進み続ける

 そんな〈友達〉のひとりが、2018年に急逝したマック・ミラーだ。生前の彼と頻繁にコラボしていたサンダーキャットは、昨年リリースされたマックの蔵出しアルバム『Balloonerism』の収録曲でも演奏や制作に関わっていた。今回グレッグのプロデュースで『Distracted』に収録した“She Knows Too Much”も同じ頃のセッションで生まれた曲なのではないかと想像する。ぶっきらぼうな表情で躍動するリズムにマックの声を乗せて進んでいくミディアム・アップだ。

 前述した以外のゲスト客演曲では、エイサップ・ロッキーを迎えたトランシーでスケールの大きい“Funny Friends”、チャンネル・トレスがクールでくぐもった声を乗せたヒップ・ハウス的な“This Thing We Call Love”、水のSEを効果的に用いてウィローと声を重ね合わせた“ThunderWave”もあり、アルバムを多面的なものにしている。また、演奏やソングライティングでも気鋭の若手ミュージシャンをフックアップ。冒頭の“Candlelight”ではすでに共演しているドミ & JDベックとふたたび顔を合わせ、ドミの鍵盤やJDのドラムとの丁々発止のプレイで近未来形のフュージョンを叩き出す。フェンダー・ローズの揺らめきとともに浮遊するファルセットが美しいスティーリー・ダン風の“What Is Left To Say”では、ギースの昨年作における仕事も記憶に新しいケネス・ブルーム(ケニー・ビーツ)によるプロデュースのもと、レモン・ツイッグスのダダリオ兄弟がソングライティングと演奏に参加。同じくダダリオ兄弟が関与した“Pozole”も何層にも重なるハーモニーが美しいバラードで、レモン・ツイッグスが得意とするノスタルジックなメロディーが陶酔感を誘う。

 ハイトーン〜ファルセットの美声は過去2作以上に全編で光る。2025年にシングル・リリースしていた“I Wish I Didn’t Waste Your Time”や“A.D.D. Through The Roof”といった比較的ストレートなAOR〜R&Bバラード、まさに月面を遊泳するような“Walking On The Moon”など、良い意味でベーシストとしてのサンダーキャットを忘れそうになる瞬間も少なくない。彼らしいSF趣味も随所に反映され、ユニークなコード進行で運命に翻弄される様を表現したような“Anakin Learns His Fate”でも裏声を交えて表情豊かに歌う。「苦しみは形を変えながら続くものだってことを知ってほしい。それでも楽しんで笑って前に進み続けるんだ」とは本作を作り終えた本人の弁。サンダーキャットの曲には不条理を音として表現したようなおもしろさがあり、自身の単独制作によるクロージング・ナンバー“You Left Without Saying Goodbye”も諦観の表情を浮かべながら美しい余韻を残して終わる。

 「自由に創作しようとしているだけで、俺はただ音の世界でどんな可能性が起こり得るのか、そういうことを考えるのが好きだ」とも彼は話す。今回の新作も、音楽以外の何かを読み取ろうとするより、シンプルにその音世界に身を任せたい。 *林 剛

『Distracted』参加アーティストの作品を一部紹介。
左から、フライング・ロータスのニューEP『Big Mama』(Warp)、テーム・インパラの2025年作『Deadbeat』(Columbia)、レモン・ツイッグスの2024年作『A Dream Is All We Know』(Captured Tracks)

『Distracted』参加アーティストの関連作を紹介。
左から、ジェラルド・アルブライトのニューEP『Hot Chocolate』(A-Train)、ジェイムズ・ブレイク&リル・ヨッティの2024年作『Bad Cameo』(Quality Control/Motown)、ベックの2019年作『Hyperspace』(Capitol)、ウィローの2024年作『empathogen』(Three Six Zero)