60年にわたる録音作品を網羅! 他レーベル音源や、“ジェイコブス・ラダー”“トラベラーズ・プレイヤー”の初録音も収録!

 現代アメリカを代表する作曲家で、ミニマルミュージックの巨匠と謳われるスティーヴ・ライヒ。今年89歳を迎える彼の、音楽的軌跡を網羅した27枚組ボックスセット[26CD+DVD]『Steve Reich Collected Works』が、ノンサッチから2025年3月14日にリリースされた。

 前回のボックス『Steve Reich Works 1965-1995』は10枚組で、同じくノンサッチから1997年に出ていた。しかし、もう30年近く前のリリースで、新たなボックスセットの発売が待たれていた。

VARIOUS ARTISTS 『スティーヴ・ライヒ:コレクテッド・ワークス』 Nonesuch/ワーナー(2025)

 今回のボックスには、前回の収録作品も含む。“イッツ・ゴナ・レイン”(1965)や“カム・アウト”(1966)といった、録音された音声を素材として使用し、テープループを用いた最初期の実験的な作品から、ポリフォニーとリズムの相互作用が特徴的な代表作“18人の音楽家のための音楽”(1976)を含み、弦楽四重奏と録音された声を組み合わせた“ディファレント・トレインズ”(1988)、そして“シティ・ライフ”(1994)、“プロヴァーブ”(1995)までの作品だ。
 
 しかし、ライヒは、今世紀も旺盛に作品を発表し続けており、創作意欲は衰えない。そのことにあらためて、驚かされる。加わったものをかいつまんで見ると、2000年代には、“ダニエル変奏曲”(2006)、“WTC 9/11”(2010)、そしてロックバンド、ジョニー・グリーンウッドとの交流から、レディオヘッドの楽曲を扱った“レディオ・リライト”(2012)などだ。・

 また、他レーベルからの録音もCD 3枚分収録されている。その中には、マハン・エスファハニによるハープシコードでの“ピアノ・フェイズ”(ドイツ・グラモフォン)、アート・マーフィー、ジョン・ギブソン、スティーヴ・チェンバーズ、フィリップ・グラス、スティーヴ・ライヒによる“4台のオルガン”(シャンダール)、アンサンブル・シグナルの“18人の音楽家のための音楽”(ハルモニア・ムンディ)がある。そのおかげで、“ピアノ・フェイズ”は、エドムンド・ニーマン&ヌリット・ティルズの録音と、“4台の~”はバング・オン・ア・カンの録音と、“18人の~”は出世作のECM盤のものと、ボックスの中で聴き比べができる。もちろん、“エレクトリック・カウンターポイント”なども、パット・メセニーとジョニー・グリーンウッド、演奏スタイルの異なる音源を一度に楽しめる。

 さらに、初出の音源も含まれている。“ジェイコブス・ラダー”(2023)や、“トラベラーズ・プレイヤー”(2020)、特に後者は日本のファンにとっては嬉しい、2023年5月にコリン・カリー・グループとシナジー・ヴォーカルズ来日時に東京オペラシティで録音されたものだ。
 
 近日左右社より訳書が刊行予定の対談集「Conversations」ではライヒとノンサッチの元代表ロバート・ハーウィッツとの対談も収められているが、ジャンルを越境し多くの一流の音楽家と仕事したハーウィッツは、ライヒとメセニーを繋げたことで“ディファレント・トレインズ”を生んだ。また、ハーウィッツを中心としてレーベルは、ライヒに対して長期的視野に立った作品カタログ作りを心がけてきており、この網羅的な選曲にライヒとノンサッチの歴史が詰めこまれている。

 そして、唯一のDVD「スリー・テイルズ」(2002)は、ライヒの妻で長年の仕事仲間である、映像作家ベリル・コロットの作品であり、日本語字幕付きで楽しむことができるのも有難い。

 ブックレットの英文エッセイは、ハーウィッツはもちろん、指揮者のマイケル・ティルソン・トーマス、打楽器奏者のラッセル・ハルテンベルガーほか、独自の視点から筆を奮う。特に作曲家のニコ・ミューリーの作品解説は的確で、なんとか翻訳しつつ読んでほしい。

 かくしてライヒを語るのに決定的なボックスセットが登場した、というわけである。