リンゴ・スターがニューアルバム『Long Long Road』を完成させた。2025年1月にリリースした『Look Up』で掴んだ手応えはリンゴの制作意欲をさらに掻き立て、T・ボーン・バーネットと新たなカントリーアルバムを完成させるに至った。多彩なゲストも迎えたリンゴの新作を、ライターの山田順一に聴き込んでもらった。 *Mikiki編集部
懐古主義ではなく現在進行形のカントリー作品
2025年の前作『Look Up』は、リンゴ・スターが1970年の『Beaucoups Of Blues』(邦題『カントリー・アルバム』)以来、再び本格的にカントリー~ブルーグラスに取り組んだ作品として話題を呼んだが、早くもその第2弾となる『Long Long Road』が届けられた。
2021年のEP『Zoom In』発表時にも、「今後、カントリーアルバムをつくる可能性はある」と話すなど、もともと、年季の入ったカントリーミュージックファンだったリンゴが、実際にカントリーへと回帰することになったのは、近年メインストリーム化しているカントリーポップ/アメリカーナに刺激を受けたというよりも、2022年にロサンゼルスで行なわれたジョージ・ハリスンの妻オリヴィアの詩集刊行記念のイベントでT・ボーン・バーネットと再会したことが大きかったようだ。次のEP用にとT・ボーンに楽曲制作を依頼したのがきっかけとなり、それが『Look Up』へと発展。実際にT・ボーンとの相性はすこぶるよく、彼とつくった『Look Up』に大きな手応えを掴んだリンゴは、そのまま第2弾の制作に着手したというわけだ。
『Long Long Road』は『Look Up』同様、レコーディングはロサンゼルスとカントリーの聖地ナッシュビルで行なわれ、演奏メンバーもナッシュビルの若手ミュージシャンたちが前作から引き続き参加。プレイだけでなく、プロデューサーも務めるT・ボーンは、ダニエル・タシアン、ロリー・ホフマン、コリン・リンデン、デニス・クラウチ、パトリック・ウォーレン、ポール・フランクリン、デヴィッド・マンスフィールドらで形成されるコアバンドのことを、リンゴがこれまで歩んできた長い長い道のりに敬意を表しながら、彼がリバプールで最初に結成したバンドにちなみ、親しみを込めてテキサンズと名付けた。それは別に懐古主義に繋がるものではなく、バンドが織りなすサウンドも、単にオーソドックスなマナーに沿ったカントリーにはならず、見事なまでにモダンにアップデートし、現在進行形のクリエイティビティを発揮しているのがポイントだ。
収録曲10曲のうち、6曲はT・ボーンが単独あるいは共同で作曲したもので、2曲は共同プロデューサーとしてもクレジットされたブルース・シュガーとリンゴが書いた曲。セイント・ヴィンセントをフィーチャーした“Choose Love”は、2005年のアルバムの表題曲だが、初期ビートルズ的だったナンバーを今回は“Tomorrow Never Knows”風のサイケデリック調にアレンジし直し、セルフカバーしている。カントリーアルバムとしては異色のトラックになったものの、『Long Long Road』と名付けられたアルバムに歌詞の内容がぴたりとハマっているのが見事だ。
リンゴの〈歌声〉は聴く者を幸せな気分にさせる
もう1曲のカバーは、ベニー・ベンジャミンとジョージ・デイヴィッド・ワイスが作曲し、ゴードン・ジェンキンスが1949年に録音したのがオリジナルで、チャーリー・リッチやペリー・コモらがヒットさせた“I Don’t See Me In Your Eyes Anymore”である。T・ボーンは1959年のカール・パーキンスのバージョンに着目し、リンゴに勧めたという。これについてリンゴは、「ビートルズでもカール・パーキンスの曲を2曲録音したことがあった。それで今回もT・ボーンと話して、ぜひ1曲取り上げようって話になった。そうして彼が見つけてきてくれたのが、俺の知らなかった美しい楽曲だった」と明かしている。
好評だった『Look Up』でもハーモニーを添えていたダニエル・タシアン、美しい歌声を聴かせていたモリー・タトルをはじめ、そのモリーとともにリードトラックの“It’s Been Too Long”に参加したサラ・ジャローズ、“Baby Don’t Go”と“My Baby Don’t Want Nothing”で相手を務めたビリー・ストリングスらがリンゴのボーカルを支える。
さらに、ビーチ・ボーイズのようなコーラスで幕が開き、リンゴの台詞も入るラストの“Long Long Road”では、2025年1月にナッシュビルで開催された公演〈リンゴ&フレンズ・アット・ザ・ライマン〉にも出演していたシェリル・クロウがデュエットしている。リンゴとそれぞれのシンガーたちとの相性もよく、アルバムの完成度を高めているが、ここであらためて浮かび上がってくるのが、リンゴの〈歌声〉だ。彼が歌えば〈LOVE & PEACE〉、誰もが幸せな気分にさせられてしまう。ドラマーとしてはともかく、ボーカリストとしては見過ごされがちなリンゴだが、この持ち味は彼にしか出せないものだと思う。
『Look Up』からはじまった好調な流れは、1990年代にマーク・ハドソンとコラボレーションしていたころを彷彿させるものがある。長い間、ずっと肩肘張らずに歩みを続け、ここまできたリンゴ。彼は今、また何度目かのピークを迎えようとしているのかもしれない。
RELEASE INFORMATION
リリース日:2026年4月24日(金)
品番:UICY-16423
価格:3,300円(税込)
仕様(日本盤のみ):解説付/歌詞対訳付、SHM-CD仕様
TRACKLIST
1. Returning Without Tears
2. Baby Don’t Go
3. I Don’t See Me In Your Eyes Anymore
4. It’s Been Too Long
5. Why
6. You And I (Wave Of Love)
7. My Baby Don’t Want Nothing
8. Choose Love
9. She's Gone
10. Long Long Road
